35.俺の顛末1/2
「そう。あなたはずっと苦しんで来たのね。」
「当たり前です。あなたに苦しみを与えたのだから、苦しくない道など選べるはずもなかった。そんなことが償いになるなんて思っていないが、それでも俺の気が済まなかった。
今でもずっと後悔している。ずっと懺悔している。ずっと、死ぬ場所を探して生きてきた。
どうか、殺して下さい。」
俺は彼女に向かって額を地面に擦り付けた。
「もう、いいのよ。苦しまないでいい。
私は生きているのよ。
あなたが祈りを捧げたそのお墓は、私の母のお墓なの。」
「え?そんなはずは・・・。
いや、あなたの言葉を信じないなんてどうかしている。
信じます。
本当に、生きて・・・。」
俺はまた涙が止まらなくなった。
「カノン~、って誰だそいつは!」
「ディシデーリオよ。お兄様は覚えているかしら?」
「はぁ?あいつか?カノンの足をこんなにした、忌まわしきあいつか?
殺してやろうか?」
「はい。殺していただいて構いません。先ほど、カノンさんが生きていたことを知りました。しかし、俺が、取り返しのつかないことをしたのは事実です。
どうか、殺して下さい。
それでカノンさんの気持ちが少しでも晴れるのなら、俺の命など惜しくはない。」
「ほう、良い心がけだな。とりあえず邸の牢にぶち込んでおくか。」
「お兄様やめて。彼はずっと私が死んでしまったと思って苦しんできたの。
この18年、一日も欠かさず後悔と懺悔を繰り返して、私がいない世界で生きていたくないと、殺してほしいと、死ぬ場所をずっと探してきたと言ったの。
もう、彼は十分苦しんだわ。私が想像できないほどに苦しんだのよ。
私は元気に暮らしているのだから、もういいじゃない。」
足・・・エリクサーを。
「カノン、お前は優しすぎる。」
「カノンさん、俺のことなどそんな風に気遣っていただく必要はありません。あなたが生きていてよかった。
死者を蘇生する方法は見つけられませんでしたが、あらゆる怪我や病を治す薬は手に入れました。
どうか、最期にこのエリクサーを受け取って下さい。
俺はもう役目を終えたので、今度こそ本当にあなたの前から消えます。
本当に、申し訳ございませんでした。」
俺は彼女の前にラーモからもらったエリクサーが入った白い箱を置き、額を地面に擦り付けて謝った。
「エリクサー?本物か?どこで手に入れた?」
「南の果てのエルフの里で、1本だけ譲ってもらいました。」
「エルフが人に譲るなど、考えられん。お前は本当は何者だ?」
「ディシデーリオです。カノンさんを傷つけた悪魔のような男です。」
「リオさーん!」
誰かが走ってくる音が聞こえた。
「お前たち、リオさんに何をしたんだ?
なんでリオさんが地面に平伏しているんだ?おかしいだろ。」
「やめろ。俺は、彼女を苦しめた悪人なんだ。平伏し謝罪をするのが当然なんだ。」
「そんなわけないわ。リオさんが悪人だったら、この世には悪人しかいないわ。」
「どういうことだ?お前らはこいつの何なんだ?」
「俺たちは冒険者パーティー希望の翼だ。数年前、まだ駆け出し冒険者だった頃、オークの群に襲われた俺たちをリオさんが助けてくれた。
俺は瀕死の怪我を負っていたが、見ず知らずのリオさんが怪我の治療をして上級ポーションまで使ってくれたから、俺は今生きている。
リオさんは返さなくていいって言ったけど、どうしてもお礼がしたくて探していたんだ。」
「何だそれは、カノンが好きな英雄リオの話みたいじゃないか。こんな奴がそんなことをすると?」
「あんた知らないのか?英雄リオはこのリオさんのことだぜ。」
「はぁ?」
「申し訳ありません。英雄などと呼ばれるようなことはしていないのに、噂が一人歩きしただけです。俺は英雄なんかじゃない。」
「リオさん、そんなことない。全部事実じゃない。なぜそんなに自分を卑下するの?」
「俺はただ、死に場所を求めて彷徨っていただけなんだ。
俺は本当にそんな人間じゃないんだ。」
「俺たちは知ってる。リオさんの功績を。
ソーレ帝国の皇帝が、行方をくらませた1人の兵を探して国が傾いた。その探している人物はディシデーリオ。リオさんでしょ?」
「それは違うだろう。皇帝が探している者はもっと上層部の人間だろ。俺は何の役職もないただの兵だ。」
「それ、リオさんが隊長になることを頑なに拒んだって聞いたよ。でも、その制服の胸には、歴代最多の勲章が並んでいて、今は博物館に飾ってあるよ。」
まさか・・・。帝国はそんなものを飾って何がしたいのかが分からない。
「俺は死ぬために死にそうな任務へ積極的に参加したただけだ。」
「噂では叙爵の話を断ったら皇帝が命令を下して、それに嫌気が差して行方を眩ませたってことになってるみたい。」
「・・・概ね合っている。」
「概ね?どこが違うの?」
「皇帝の命に叛くことはできない。しかし、俺は爵位を得ていいような人間じゃないんだ。何の罪もない少女を死に追いやった悪魔のような人間だから。
それで、仕方なく国を出た。」
「死に追いやった・・・ディシデーリオ、私は生きているわ。」
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