34.お迎え
緊張する。
18年ぶりの産まれた国だ。
金を払って街に入ると、真っ直ぐ図書館を目指した。
国内の地図など初めて見た。
まだ子供だった俺は、国内のどこに何があるかも、王都がどこにあるのかも知らなかった。
彼女の墓は、おそらく彼女の家の領地にあるだろう。彼女の家名。ジェンティーレ。
ジェンティーレ領は今いる場所から近かった。リーベルタの中でも南に位置しており、ここから1日ほど東に進めばジェンティーレ領に入る。
街道を歩くことはできず、やはり森に入ってコソコソと森の中を通って東に移動した。
ここが彼女の家の領地・・・。
彼女は学園に入る前まで、ここで過ごしたんだな。
深すぎる森もなく、明るく開けた場所が多いこの土地は、明るく爽やかな彼女のようだった。
酒場に寄り、領都を一望できる丘の上にジェンティーレ家の墓地があると聞いた。
街で真っ白な花を買うと、公衆浴場で身を清め、ボロボロの服から久しぶりにまともな服装に着替えた。
俺はゆっくり丘を登っていった。なぜか涙が溢れた。これでやっと彼女の側で死ねる。
そう思うと少し安心感もあって、そして彼女への申し訳なさが込み上げて、嗚咽を漏らしながら泣き歩いた。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
俺のような者が生きていてごめんなさい。
丘の上に登ると、そこには墓が並んでいて、何となく1番向こうにある白い墓石が彼女のものな気がした。
俺はその墓石に花を手向け、その前で膝をついて地面に両手をつき、額を地面に擦り付けて謝った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。あなたの人生を奪ってごめんなさい。
俺はあれから、あなたのことを一度だって忘れたことはない。一度だってあの日を後悔しなかったことはない。一度だってあなたに懺悔しない日はない。
許してもらえるとは思っていない。どうか、あなたの手で俺を殺してください。
どうか、お願いします。
どうか俺を、殺してください。
もう、生きていたくないんです。俺はあなたを失ってから、一度だって生きていると実感したことはない。
もう、あなたがいない世界には、1秒だっていたくないんです。
どうかお願いします。俺を殺してください。
どうか、俺を殺してください。
お願いします。」
俺は彼女にどうか俺を殺してほしいと懇願した。地面に額を擦り付け、叩きつけ続けた額は切れて血が滲んできたが、殺してほしいと懇願することを止めることはできなかった。
「カノン・・・。
俺はあなたが好きだった。
ただ、俺にも・・・みんなに笑いかけていたように、笑いかけてほしかった。
でも、あなたが俺に笑いかけてくれることなど無いと知っている。
あんなことをして本当に申し訳ない。謝ることしかできない俺を許してくれとは言わない。永遠に恨んだままでいい。
どうか、カノン、俺を殺して下さい。
どうか、恨みを込めて、地獄に突き落として下さい。
どうか、俺を殺して下さい。」
パサッ
後ろで何かが落ちる音がした。
しかし、俺は顔を上げることができなかった。
「あなたは誰?」
「え?」
俺は話しかけられて、それが女性であることを知った。そして、やっと顔を上げて、後ろを振り向いて驚愕した。
「カノン、なのか?
やっと俺を殺しに来てくれたのか?」
「なぜ私の名前を?」
それは大人になったカノンに見えた。
見えたんじゃない。彼女がやっと幻となって俺の前に現れてくれたことに、幸せを感じてしまった。
俺が幸せなど感じてはいけない。俺は幸せになどなってはいけない人間だ。
「俺のことなど、思い出したくはないだろう。俺はあなたを死に追いやった張本人なのだから。」
「え?どういうこと?」
「俺の罪を、話せばいいんだな。そうすれば、ようやくあなたのその手で殺してもらえるんだな。」
「・・・。」
「俺は18年前に、あなたを殺してしまった男だ・・・。
俺は、高いところからあなたに向かって飛び蹴りを。そして、あなたは倒れて・・・。
申し訳ございません。本当に申し訳ございません。
俺が謝ってあなたが帰ってくるのなら、俺は永遠に声が枯れても喉を切り裂かれても謝り続ける。
本当に申し訳ございません。
俺の命をあなたにあげたい。生きている価値のない俺なんかより、あなたに生きてほしい。
しかし・・・
あなたのその姿は幻なんだろう?
俺が最期に見るあなたが、苦しい表情でなくてよかった。
どうぞ、俺を殺して下さい。
ずっと、死にたかったんです。死んで償えるとは思っていないが、それでも、あなたに殺してほしい。」
俺は目の前に、彼女に持ち手を向けてマチェットを置いた。
「もしかしてディシデーリオ?」
「はい・・・。」
彼女はゆっくり、片足を引き摺るように俺の側まで歩いてきた。
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