30.剣の使い方


「セレーノたちは、ドラゴンが出るとそこへ向かっていくという感じなのか?」

「そうだな。棲家はあの火山だが、あそこは火山灰も酷いしマグマが流れて人間は近づけないからな。飛んだらその方向に駆けていく。」


「そうか。」


確かにマグマは俺でも無理だな。そんなところで簡単に死んではいけないことくらい馬鹿な俺でも分かる。楽に死ぬことはできない。

ふぅ、ドラゴン討伐か。また一つ目的ができてしまった。


スドにかかる結界を突破する方法も見つかっていない今、情報を集めながらドラゴン討伐か。



「セレーノ、知っているなら聞きたいんだが、スドに入る方法はあるのか?」

「ないな。あそこはエルフの里で、人間を嫌悪しているから人間は入れないんだ。」


「そうなのか。」

「オリーデはスドに行きたかったのか?なぜ?」


「薬を探していて・・・。」

「あぁ、エルフは薬を作るのが上手いからな。エルフが作った薬ならたまに街でも売っているぞ。」


「そうなのか?」

「あぁ、街に案内しよう。」


そうなのか。いい情報を得たようだ。

確かにあの本にも、使われた痕跡は南に多いと書かれていた。

何もスドに拘らなくても、この辺りの街でも手に入るかもしれない。

ドラゴンは倒すが、その合間に薬を探してみよう。



セレーノたちに付いて街まで行くと、金を払って街に入った。


「身分証がないと不便なんだな。オリーデは強いから冒険者になればすぐにSランクまで上がってこれるんじゃないか?どうだ?登録しないか?そして俺たちのパーティーに入らないか?」

「いや、誘いは嬉しいが俺には目的があるから、冒険者にはなれない。」


「そうか。それは残念だな。」

「すまん。」


俺にセレーノたちのような真っ直ぐで輝くような場所に立つことは無理なんだ。

それに冒険者ギルドにも行きたくはない。

ギルドカードを出せば騒ぎになることは目に見えている。


討伐に駆り出されることは構わないが、握手を求められたり、あのキラキラとした視線を向けられることが、俺が皆を欺いているようで苦しくてたまらない。



「じゃあ俺は薬屋を巡るから。」

「あぁ、また会ったらよろしくな!」


セレーノたちは爽やかな笑顔で手を振ってくれたが、俺は軽く会釈して背を向けて歩いて行った。




「はぁ?エリクサー?女神の祝福?そんなもんは夢か幻じゃ。」

「そうか。」


この街の薬屋には、どちらも無いようだった。

それどころか、その存在も疑われているようだった。図書館に寄ってこの国の地図を出してもらい、他の街にいくつか目星をつけて向かってみることにした。


あの日以降、ドラゴンは現れておらず、俺は街を巡って薬屋を回った。

結果は全滅だった。

どこの薬屋にもなかったし、そんなものは存在しないと言われた。


どこかに情報だけでも無いものかと、酒場などにも立ち寄ってみたが、有力な情報はなかった。



ダメか・・・。

やはりスドに行ってみるしかないのか。

しかしな、人間は入れないという場所にどうやって入るのか。

結界を壊すなど俺が余計なことをすれば、彼らはもっと人間を嫌い、憎んでしまうだろう。そんなことをしてはいけない。


そんなことを思いながら、火山に近い街まで戻ってきた。

こんなところでいつまでもドラゴンが出てくるのを待っていても仕方ない。

何か誘き出す方法はないんだろうか。


いい方法が思い浮かばないまま何日か経った。

俺は森で寝起きし、ドラゴンを倒すイメージを固めていったが、決定打となるような攻撃が思い浮かばない。

小さな傷を与えていっても、ドラゴンに逃げられてしまえば終わる。


翼を切るにしても、風の刃を使っても俺にそれほどの威力は出せない。

この剣、使えないものなら鈍らだと言われた。使えてはいるから、そのまま使っていたが、もしかしたら使い方が間違っていて本来の能力が出せていないのでは?


俺は剣を眺め、そして森の中で魔獣を探しては剣で仕留めていった。

はぁ、分からない。

ドラゴンほど皮が硬い魔獣はおらず、これがちゃんと使えているのかが分からなかった。



木なら魔獣よりは硬いか?

木に向かってロングソードを振り抜いてみた。

直径20センチほどの木が薙ぎ倒された。

断面を見て見ると、サックリ切れた感じではなく、やはり力押しのような気がした。


角度か?位置か?

角度や持ち方を変え、何本もの木を切ってみた。

しかし、結果は変わらなかった。

俺には使いこなせないということか。


それならそれで仕方ない。

最後にもう1本。と振り抜くところで、俺は泥濘ぬかるみで足を滑らせた。


まだまだ甘いな。こんな泥濘ぬかるみなどに足を取られるとは。

しかし横を見ると、全く力が入らなかったはずの木が倒れていた。そして断面を見ると、ツルツルとしており、今までとは全く違う切れ味に見えた。



今、俺はどうやった?

その後も何度か試してみたが、再現できない。


滑って、そちらに気を取られたから力はそう入れていないはずだ。

撫でるように?滑る?滑らすようにか?



俺は木の前に立ち、刃を当てて木をそっと撫でてみた。


なっ!

そっと撫でたはずの木は、中程まで刃が埋まっており、更に引くようにゆっくり動かすと、綺麗な断面の切り口で木は倒れていった。


撫でるのか?いや、引くのか。

側にあった木に向かって、引くように剣を振り抜くと、勢い余って隣の数本の木までスパッと切れて、一刻置いてゆっくり倒れていった。


そうか。こんな使い方の剣があるんだな。知らなかった。

その後、俺は何本か木を切り、魔獣を探しては引きながら切るという方法を試していった。



まだあと少し練習しなくては。そう思っていたが、ドラゴンは待ってはくれなかった。


火山が爆発する音と共にドラゴンは飛び出し、先日の村より少し西の村へ向かった。


俺は飛ぶドラゴンを目印に駆けて行った。


村人はドラゴンを見つけると、着の身着のままで慌てて逃げていく。俺は村人が逃げる時間を稼ぐためにドラゴンと対峙した。


毎回セリーノたちが来るわけではないのか、セリーノたちは来ない。


勢いよく暴れ回られると、逃げ遅れた人に被害が出ると思い、軽い攻撃を足に当てていく。

思ったより切れるな。

先日、威力を高めて放った風の刃と同じくらいの傷が付く。滴り落ちる血。



ガアァァァァァァア


ドラゴンの大きな叫び声に、人々は恐怖し、足を止める。いや、動けなくなった。

不味いな。


しかしドラゴンはそのまま飛び上がり、火山へと帰って行った。



俺はすぐに森に向かって薬草を摘むと、村に戻って転んだ人の手当てをしていった。


「あなた様のおかげで助かりました。村の建物も半壊した建物はありますが、ほとんど無事ですし。傷の手当てまでしていただいて。」

「いや、誰も犠牲にならずに済んでよかった。」


「あなた様のお名前は?」

「俺はオリーデだ。」


「オリーデ様、ドラゴンを追い返してくれてありがとうございました。」



「あれー?オリーデ早いね。ドラゴン今回はさっさと帰って行ったんだね。俺たち間に合わなかった。」

「オリーデ様が勇敢にお1人でドラゴンへと向かわれ、村の建物が壊滅する前に追い返してくれたのです。」


「あぁーなるほど。それで被害が少ないように見えたのか。オリーデ、あんた凄いな。勇者か?

さすがの俺でも1人でドラゴンの前に立つことはできない。」

「いや、俺など大したことはない。」


「そんなことありません。怪我をした村の者たちを気遣って手当てまでしてくださった。」

「オリーデやるねー」


「いや、俺はそんな褒められるような人間ではないんだ。じゃあ俺はまだ修行があるから・・・。」


そう告げると、俺はさっさと森へ引っ込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る