31.スドと潰えた希望
思ったよりこの剣の切れ味はよかった。
これならもう少し練習すれば、ドラゴンを倒すイメージができる。
しかし、村人たちが周りにいる状況で大きな攻撃をするのは難しいな。
風の刃が抜けた先や、ドラゴンが倒れた先に人がいてもいけないし。
そして2日後、だいたい倒すイメージができるようになったと思った頃、ドラゴンが再び火山から飛び立った。
ドラゴンが行く先に駆けて行くが、そこはスドの上空だった。
俺ではこの先には進めんな。
結界が張ってあり、俺は足止めを喰らった。
しかし、ドラゴンはそんなことはお構いなしという風に、結界に向けて火を吹いた。
初めは火を弾いていた結界がだったが、だんだん赤く燃えていくのが見えた。
ピキピキとヒビが入る。
パリンッ
結界の端はとうとう割れた。
そこからスドに侵入するドラゴン。
スドの中から悲鳴が聞こえた。
普段、結界で守られているから、戦う術を持たない者たちが多いんだろう。
俺は放っては置けないと思い、目の前の結界を剣で切ると、その隙間から中に侵入して、ドラゴンが下りた場所を目指した。
そこには木でできた小さな家が並んでおり、逃げ惑う人?人に近い者たちが多数見えた。
俺はその者たちとドラゴンの間に割って入り、ドラゴンの足を切りつけた。
グアオォォォォォォオ
この叫び声は不味い。人々が動けなくなる。
ドラゴンの足の近くにいた子供2人をサッと抱えると、村の外に下ろし、他の者たちも、抱えては村の外へ移動させた。
もちろんその間に、ドラゴンからの攻撃を剣で受けたり、牽制のために風の刃をいくつか放ったりもした。
索敵を発動し、残った者がいないことを確認すると、ドラゴンの足を先ほどより深く切り付けた。
するとドラゴンは飛び上がり、残っていた結界を破りながら結界の外へ出て飛んでいった。
ふぅ。とりあえず犠牲者は出なかったようで安心だ。
「おい!」
そうか、ここは人間を嫌っている種族が住んでいる場所だった。
「勝手に入ってすまない。すぐに出ていく。」
俺はすぐに村を出て、先ほど破ってしまった結界の入り口へ向かって走り出そうとした。
「ちょっと待て。」
「そうだよな。俺のような奴が神聖な場所に勝手に入ったんだ、しかも結界を切って入ってしまった。
捕らえて殺してくれても構わない。」
ごめん、カノン。蘇生してやれなくて。
無念ではあるが、この者たちを助けたことだけは後悔していない。
俺は地面に膝をつき、剣を前に置いた。
「いや、殺しはしない。しかもお前、結界を切ったとか言ったか?」
「はい。この剣で切り込みを入れて、そこから入りました。」
「そ、そうか。我らを守ってくれたんだ、不問としよう。」
「え?」
「わしはここの長老のラーモだ。お前、名前は?」
「オリーデ、です。」
「オリーデ、ありがとう。誰も死ななかったのはあなたのおかげだ。」
「いえ。」
「我らを拐おうとして結界を抜けたわけじゃないんだな?」
「違います。そんなことはしません。ドラゴンを追っていて、悲鳴が聞こえたので・・・。
言い訳ですね。それでもあなたたちの領域を侵害してしまったのは事実です。申し訳ない。」
「そうか。ドラゴンをな。」
「あなたたちを拐おうとは思っていませんが、チャンスがあればここに来たかったのは事実です。申し訳ありません。」
「なぜ来たかったのか聞いてもいいか?」
「俺は薬を探して旅をしていて、この辺りの街でも探したが無かった。それで尋ねたいことがあったんです。」
「薬。なるほどな。どんな薬だ?村を救ってくれたんだから、我らが持っている薬なら渡せるぞ。」
「女神の祝福という薬です。」
「なぜその名を?」
「エリクサーと女神の祝福が実在すると思われるという考察が書かれた本を読んだんです。
俺にはどうしても蘇生したい人がいるんです。ラーモ殿、もし知っていたら教えてくれませんか?
どうか、お願いします。」
なりふりなど構っていられない。彼らの優しさにつけ込むことになっても、彼女を蘇生する方法が見つかるのなら、それで構わないと思い、頭を下げて地面につけた。
俺は本当に卑しい人間だ。
「話すけど、とりあえず頭を上げてくれ。」
「はい。」
ラーモの話はこうだった。エリクサーは実在するが、女神の祝福は実在しない。
エリクサーを与えた瀕死の者の心臓が一瞬止まったが、すぐに息を吹き返した。
それを見ていた者たちが、これはきっと女神の祝福だと騒いだことがあった。
それがどこかで情報が歪んで伝わったのだと。
エルフという種族は長寿で、俺とそう変わらないように見えたラーモも、もう500歳を超えているのだとか。
ラーモは先の一瞬心臓が止まった者が息を吹き返した現場にもいたのだそうだ。
そんな・・・
俺の唯一の希望は絶望へと変わった。
彼女の蘇生は叶わない?嘘だ・・・。
目からは涙が出て溢れ、どんどん流れ落ちていった。
握りしめた拳は、手のひらに爪が刺さって血が流れた。
この場で喉を切り裂くか、心臓を突き刺して死んでしまいたい。
彼女が戻らない世界など、もう一瞬でも生きていたくない。
マチェットに手が伸びたが、掴む前に思い出した。弱い人々を脅かすドラゴンは、倒さなければならないと。
死んでも構わん。倒せるならそれでいい。
「教えてくれてありがとう。俺は戻ります。」
「おい、オリーデ大丈夫か?」
「あぁ。ドラゴンさえ倒せば、もう俺はいつ死んでもいい。手足が食い千切られても構わない。痛みなど、彼女の苦しみに比べれば大したことなはない・・・。」
「心配だな。本当に死んでしまいそうに見える。とりあえず出口まで送って行こう。
剣で切ったというところも見てみたいしな。」
監視だろう。俺がおかしなことをしないか。
カノン・・・俺は・・・。
流れ落ちる涙は止まらなかった。もう、俺が生きる理由は無くなった。
「オリーデ、その愛する者の分まで生きよ。」
「それはできない。彼女は俺が殺したんだ。そんな俺が生きていること自体、罪なんだ。誰かが俺を殺してくれるのなら殺してほしい。」
「オリーデ・・・。」
しばらく歩くと俺が切った結界が見えてきた。
「これが剣で切ったというところか。その剣は特殊なものなのか?」
「ミスリルシルバーだと聞いている。」
「あぁ、なるほど。それでこんなに綺麗に切れたのか。」
「結界を切ってすまなかった。」
「気にするな。ドラゴンが破った穴に比べればこんなもの大したことはない。
それよりオリーデ、お前が心配だ。わしが話くらい聞いてやるぞ。」
「いや、大丈夫だ。」
結界を出ると、セリーノたちがいた。
「やっぱりドラゴンを追い返したのはオリーデだったか。どうした?エルフに泣かされたのか?」
「我らがそんなことをするはずないだろう。オリーデは我らの村の者たちを守ってくれたんだ。」
「って、あんたエルフじゃねーか。結界の外に出てくるなんて珍しいな。」
「あぁ、オリーデが心配でな。こいつはおそらく無茶をする。ドラゴンと闘って死ぬつもりだ。」
「なんでだよオリーデ。薬を探しているんだろ?それはどうなった?」
「あぁ、それな。残念ながらオリーデが探していた薬は存在しないんだ。オリーデはそのことだけを希望として生きてきたらしい。
だから存在しないことを知って、こうなってしまった。」
「そんな・・・。」
「あんた誰か知らんがオリーデの知り合いなんだろ?オリーデを頼むよ。」
「それは構わないが。ってオリーデは?」
「は?どこへ行った?まずいな。」
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