32.最後の戦い
俺は1人になりたかった。
森の奥まで走ると、地面に膝をついてマチェットを自分の首に当てた。しかし引けなかった。
刃を当てた首からは薄っすらと血が滲んだが、引けなかった。
カノン・・・
死ぬまで俺は貴方に会えないようだ。
俺の唯一の使命は無くなった。
俺はそのまま地面に伏して泣き続けた。
いつの間にか空には星が輝いていて、俺は星に向かって懺悔を繰り返した。
俺の足をあなたにあげたい。俺の手もあなたにあげたい。俺のこの目も口も鼻も耳も、心臓も血液も、全てあなたにあげたい。こんな命など惜しくない。
俺みたいな奴の身体など要らないだろうが、どうしても、あなたには生きてほしかった。
俺が奪っておきながら、生きてほしいなど・・・。
行くか。
俺は明け方に立ち上がると、火山の近くで村がない開けた場所を探して回った。
すると、建物が朽ち果てた廃村を見つけた。
俺はトルネードを起こすと、そこにあった建物の残骸を巻き込み、そのまま空高く上げ、中には風の刃や石や岩などを複数仕込んで火山の中に放り込んだ。
ドオーーン!
怒ったドラゴンが姿を現した。
火球を使って俺の場所を示し、顔に火球をたまに当てて挑発しながら、俺の元へ誘き寄せた。
これで終わりだ。お前も俺も。
「さあ!最後の戦いだ!俺を殺せ!殺してみろ!」
ガアァァァァァァア
「そんなもの、俺には効かんぞ!」
俺は駆け出した。一瞬で背後に回ると、飛び立てないように背中の翼を根本から切り落とした。
ギャアァァァァァア
「逃げるなよ!」
振り回された尻尾を飛び上がって躱すと、もう片方の翼も勢いを付けて飛び上がって切り落とした。
ドラゴンは俺に向かって火を吹いたが、別にどうってことはない。皮膚が焼け爛れようとも、もう死にゆく俺にはどうでもいいことだ。
「そんな攻撃で俺が怯むと思うな!」
俺は躱すこともせず、火をまともに浴び、髪の前面は焦げてチリチリになったし、顔をガードするために前に上げた腕の皮膚は焼け焦げて肉が見えた。
それでも俺はドラゴンに向かって駆け、火を吹いていることで油断しているドラゴンに向かって飛び上がって首を横一文字に切り裂いた。
骨があればいい。筋が無事なら剣は振れる。
肉が焦げ落ちても、焼けた服と皮膚が溶けて張り付いても、剣さえ振るえればそれでいい。
ギャアォォォォォォオ
俺は必死に剣を振るった。
これが俺の最後の戦い。
ドラゴンの鋭い爪の攻撃に、腿がザックリと切れたが、それも気にせず駆けた。
左腕は、肩から先がドラゴンの鋭い牙によって食い千切られた。
まだ、右手が残っている。
剣さえ持てれば、この剣は力がなくても振れるから問題ない。
火山に住んでいるドラゴンは近づくだけで焼けるように熱い。
傷ができても焼かれるため、止血になっているようだった。
「この程度の痛みなど、足を止める理由にはならん!怯む理由になどならん!」
まだ骨は無事だ筋は無事だ。例え骨が砕けても、俺は前に進む。こいつを倒すまでは死なん。
「そんなもんか!さぁ!俺を殺してみろ!」
俺は一度切り裂いたドラゴンの首元をさらに深く切り裂いた。
ドラゴンから流れる血は焼けるように熱く、飛び散った血で俺の肉はジュウジュウと焼けていく。
ドラゴンの足を切り裂き、ドラゴンは仰向けに倒れていく。
「いたぞ!」
「ダメだ、オリーデが死んでしまう!」
「オリーデを止めろ!」
「ダメだ、近づけない!」
必死に鋭い爪の手を動かすドラゴンに、俺は何度も切り裂かれた。
もう、腕は骨が見える。足の骨は砕け、まともに動けはしない。肉も引き裂かれ血と共に辺りに飛び散っている。しかし気力だけでどうにか足を動かし、ドラゴンの攻撃を避けもせず突っ込む。
千切れそうな筋肉に力を込め、飛び上がると、切り裂いた首元から脳天に向かって全体重をかけて剣を突き刺した。
ピクピクと痙攣するドラゴンの動きが止まると、ドラゴンの胸の上で俺も力を抜いた。
崩れゆく身体を支えることもせず、そのまま倒れ、意識を手放した。
カノン・・・ごめん。
「オリーデを早く回収するんだ!」
「わ、分かった。ドラゴンはもう死んでるんだよな?」
「早くしろ!死んでしまう!」
「わしの村に運んでくれ!」
カノン・・・会いたい。
カノン・・・ごめん。
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