死にたがりの英雄 〜俺の間違いだらけの人生〜
たけ てん
01.俺の罪
「カノン!覚悟ー!とりゃー!!」
「え・・・?」
ドサーーッ
昨日は突き飛ばしただけだった。
みんなには優しく笑いかけるのに、俺にだけは不機嫌な顔か怯えた顔しか見せないのが気に入らなかった。
俺が高いところから飛び降りるようにカノンに食らわせた飛び蹴りは、受け身も知らない少女に直撃した。
飛び蹴りをする時、俺よりだいぶ体格の小さい彼女は俺に怯えた表情を向けた。そして蹴りが入ると彼女は倒れ、ぐったりと意識を手放した。
彼女を踏み潰した感触に、やりすぎたと思ったがもう遅かった。そして血の気が引いていくのを感じ、俺は動けずその場に立ち尽くした。
ただ、とんでもないことをしてしまったということだけは分かった。
「カノンッ!!」
どこから見ていたのか、彼女の兄が駆けてきて、彼女を抱えて急いで帰っていった。
そこに残ったのは、彼女の髪に飾られていた布でできた小さな花だけだった。
その後は、どうやって帰ったのかも覚えていない。
塞ぎ込む俺は、学園に通う気になれず部屋に引き篭もった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
布団を被って丸くなり、ただひたすら彼女に向けて届くはずのない謝罪を繰り返した。
「お前が危害を加えたジェンティーレ伯爵家のお嬢さんは亡くなったそうだ。」
そして後日、父親から彼女が亡くなったと告げられた。
嘘だ・・・。彼女が亡くなるなど・・・。
信じたくはなかったが、それが俺のせいだということは分かった。
死ぬということがどういうことか、分かっているつもりだったが分かっていなかった。
俺は泣いた。そんなことをした自分が恐ろしくて、彼女を死なせてしまった事実が恐ろしくて、彼女がもういないということが悲しくて、ずっと泣いていた。
カノン・・・
当たり前だが、彼女を殺そうなどこれっぽっちも思っていないし、本当は俺を見て欲しかっただけ、仲良くしたかった。ただそれだけだったのに。
あの事件は、子供同士の事故として扱われた。
俺は学園を退学させられ、他国へ移され、規律が厳しい全寮制の軍学校に入れられた。
それは俺が9歳の時だった。
生きる希望なんてなかった。でも、死ぬ勇気もなかった。彼女を死なせてしまったのに、ふざけたことだが、俺には勇気がなかった。
ただ無心で剣に打ち込んで、ただひたすら走って、それでも苦しみから解放されることはなかった。
入学して数ヶ月経つと、嫡廃するという紙切れ一枚だけが、実家から送られてきた。
それ以外は何の手紙もなかった。
俺も、手紙を両親に書いたことはない。
ただ毎日、早朝に走る
神を信じることもやめた。夜寝る前には、寮の窓を開けて1番輝く星に懺悔と祈りを捧げた。
それで許されるとは思っていない。
死ぬまで続けても、許されることはないだろう。
軍学校で6年過ごし、そのままその国の軍隊に入れられた。
母国で俺は死んだことにされたのかもしれない。
俺は自分を戒めるために、魔獣の討伐や戦争にも積極的に志願した。
いや戒めなどではなく、自分で死ぬ勇気がないならと、死ねそうなところに行きたかったのかもしれない。
とにかく俺は、俺のような奴は、苦しい状況下にいなければならないと思った。
が、しかし、人は一瞬で死ぬ生き物なのに、死にたいと思っても、なかなか死ねないものだ。
そんなことを繰り返しているうちに、制服に着けられた勲章は増えていった。
隊長への打診もあったが、俺のような者の下に付く奴が可哀想だと思い、辞退し続けた。
無数の勲章が着けられた制服、報奨金も貯まる一方だが、俺は部下を持たないただの兵のままだった。
そして協調性のない俺は、扱いに困るということで上司が度々変わり、とうとうどこの隊にも属さない将軍の直下に配属された。
そして更に何年か経つと、叙爵の話が出たが、それも断固拒否した。俺のような者が地位を得るなどあってはならない。
俺は早く死にたかった。早く死んで、そして彼女に会って謝りたかった。
謝ったところで何にもならないが、ただ彼女に会いたかった。死ねば会えるのだと信じた。
隊長の話は断り続けても何も言われなかったが、叙爵の話はしつこく、皇帝の命令まで出た。
もう、この国にいることはできないか・・・。
長く過ごした国というだけで、この国には別に何の思い入れもない。守りたい人がいるわけでもない。
俺は勲章のせいでズッシリと重くなった制服を綺麗に畳んで私服に着替えると、愛用していた剣も防具も持たず、金だけ持って国を出た。
それは25の時だった。
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