11.商人と護衛


3日ほど森の中を走ると、街道に向かった。

国境を越える列に並び、門番にギルドカードを見せると、すぐに通された。


冒険者ギルドカードというのは国境も越えられるのか。便利なものだな。

国境を越えると、すぐに森に入り、また5日ほど南へ向かって走った。



そろそろいいだろうか。街道に出て街へ向かう。

アランシア共和国は王や皇帝のような者がいないと聞く。

帝国の監視も入っていないと思うが、どうだろうな。



街が遠いな。

街道に出て半日以上走っているが、街が見えてこない。


南に向かって走っていると、剣を交える音が微かに聞こえた。

誰かが戦っているのか?

魔獣に襲われているのかもしれないな。俺は走るスピードを上げた。


遠くに見える影は人同士の戦いのように見えた。

野盗か。

襲われているのは荷馬車のようだから商人だろうか。



「助けはいるか?」

「いります!」


その言葉を聞いて俺は参戦することにした。

20人ほどいた野盗たちをサッと倒すと、怪我をしている護衛だろう男に駆け寄った。


「大丈夫か?動けるか?」

「あぁ。すまん、助かった。」


それほど傷は深くなさそうだ。

近くを見渡し、薬草を見つけると、石で擦り潰して水で洗った傷に塗りつけた。


「ありがとう。」

「いや。」


「助かりました。彼も怪我を負って、数が多かったので、もうダメかと思いました。」

「間に合ってよかった。」


「あなた様も南へ?」

「あぁ。近くの街まではどれくらいあるか分かるか?」


「まだあと馬車で1日ほどあります。」

「そうか。」


「一緒に行ってもらえませんか?」

「俺がか?」


「はい。彼は怪我をしていますし、もちろん報酬は出します。

どうも帝国から野盗が流れて来ているようで、今回は何度も襲われているのです。

どうかお願いします。」

「分かった。分かったから頭を上げてくれ。」



俺なんかに頭を下げないでくれ。

俺なんかは誰よりも頭を低くして過ごさなければならないような人間なんだ。

どうか、俺なんかに頭を下げないでほしい。



俺は荷馬車の荷台の端に護衛の男と一緒に乗り込んだ。


「すまんな。俺が不甲斐ないばかりにあなたに迷惑をかけて。俺はプラートだ。」

「俺はリオだ。」


「ずっと俺が護衛として専属契約をしていて、今までは1人でも大丈夫だったんだが、今年は野盗が多くてな・・・。」

「そうか。さっき商人の彼もそう言っていた。帝国から野盗が流れて来たと。帝国で何があったんだ?」


「あぁ、帝国に入ったわけじゃないから詳しくは知らないんだが、軍の主力を担っていた者が失踪したらしくてな。

それで戦力がかなり下がって野盗を捌けなくなって溢れたとか。

その者は皇帝のお気に入りで野盗への対策より、その者を探すことに躍起になって国が荒れ始めているとか噂がでている。」


「そうなのか。」



軍の主力を担っていて皇帝のお気に入りか。誰だろうな。軍の上層部の誰かなんだろうな。

俺は隊長にも出世にも興味が無かったから上層部のことは将軍くらいしか知らないが、1人抜けただけでそのようなことになるとは、よほど優秀な者だったのだろう。


あの国は皇帝がかなり強い権力を持っているからな。例えお気に入りでも、俺のように命令されて嫌になって逃げる者もいるんだろう。


俺の場合はただの兵だし、ただの兵が行方を眩ますことなどよくあることだったしな。下手したらしばらく誰も気付かないだろう。

俺は将軍直属だし、将軍は俺のような一兵などいなくなっても気付かないだろう。いつも忙しそうにしていたし。

下手したらまだ誰も気づいていないかもしれない。

何れにしても俺には関係ないことだ。



「リオ、お前は冒険者なのか?」

「あぁ、冒険者登録はしている。」


「やっぱりな。あれだけ強ければただの旅人ではないよな。」

「俺など大したことはない。」


「いやいや、あの数の野盗をあんなに早く倒せるなんて、余程の腕がある者でないと無理だ。」

「そうか?」



俺になど気を遣ってくれなくていいのに。

人の優しさが苦しい。

俺は人に優しくしてもらえるような人間じゃないんだ。

苦しくなると彼女が思い浮かぶ。


どうが早くあなたの元へ連れて行ってください。死後の世界では俺はあなたの下僕でも奴隷でも踏み台でも構いません。

せめてあなたの役に立ちたい。



商人は番などできないし、護衛の彼は怪我をして傷は塞がっているが血が足りない状態だ。俺が寝ずの番をすると主張し、1人で寝ずの番をすることになった。

別に1日や2日寝ないでいるなど、どうってことはない。

軍では夜勤もあったし、遠征や戦争の時など、何日も眠れないことは何度も経験している。



俺は彼らが寝静まると、膝をついて空の彼女に懺悔と祈りを捧げた。

これは必ずしなければならない。そう俺が決めたこと。


この懺悔が祈りが彼女に届くかは分からない。分からないが・・・。

許されたくてするわけじゃない。何年経っても、あの日をあなたを忘れないでいるため、俺が自分に課したこと。


どうかあなたの手で、考えうる限り最大に残虐な方法で殺して下さい。毎日祈る。空の彼女に向かって。

指を組み、泣きながら祈る姿は、本当に耐え難いほどに気持ち悪いんだろうな・・・それでも、祈ることはやめられない。

俺の命が天に召されるその日まで。

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