10.2度目のクエスト2/2


「リオ、お前Aランクではないと言っていたが、Sランクだったのか。」


ニコロが意味の分からないことを言ってきた。



「いや、俺はBランクだ。」


「はぁ?その強さでBはない!」

「そんなことを俺に言われても俺にはどうしようもない。」


実績がないのは俺のせいと言えば確かにそうだが、Bランクなのは俺が希望したことではないし、俺は別にランクを上げたいという気持ちもない。

ランクを上げれば彼女に近づけるというなら必死で上げるが。



「ハァ、本当に37体だと聞いた時は犠牲が何人か出るかと思ったが、リオがいたおかげで犠牲はゼロだ。しかも、リオお前、最後の方はオークを倒さないように攻撃しただろ。さすがだな。」


ギルマスまでなんなんだ?



「初動では彼らの仕事を取ってしまったからな。彼らが倒した方がいいと思ったんだ。」

「ありがとう。彼らに命の危険がない状態で戦わせてくれて。きっと彼らにとってもいい経験になっただろう。」


「そうか。それはよかったな。」



「なんで他人事なんだよ?お前は自分の功績をもっと誇ってもいいんじゃないか?俺は凄いと思った。剣で戦っている合間に風の刃を放って他の者を援護していくところなんかは、本当に感動した。」


ドメニコまでどうした?



「そ、そうか。」

「吟遊詩人が歌にするだけのことはあるな。」


「それは本当にやめてくれ。俺はそんなんじゃないんだ。」



俺ほど見苦しく生き恥を晒している人間はいないんじゃないかと思う。

今すぐにでも消えてしまえたらいいのに。


この苦しみは、俺への報い。

苦しい。彼女のことを思うと、生きていることが苦しくて仕方ない。

それなのに俺は・・・。




「ギルマス、オークはどうするんだ?」

「今、足の速い者に伝令を頼んでいる。荷車と回収の人員の手配をな。しばらく待っていてほしい。

いや、実はこんなに早く終わると思っていなかったんだ。

だから夕方ごろに荷車と回収の人員を寄越すよう手配していたんだが、数も違ったし、早く終わりそうだと思って伝令を走らせた。」


「そうか。」

「みんなで昼飯でも食って待つとしよう。」


ギルマスが何か大きな荷物を持っていると思っていたが昼飯だったのか。

ギルマスがサンドイッチの包みをみんなに配っていった。



俺の分まであった。


「俺の分まであるのか?」

「当たり前だろう。今日一の功績を残した者なんだから当然だ。

それに、リオが先を急いでいるのを知っていながら、参加してくれと頼んだのだしな。」


「そうか。ではありがたく頂くとしよう。」


まともな飯など、いつぶりだろうか。

軍にいた頃は勝手に出てきたから食っていたが、帝国を出てからはわざわざ店に入って食事をすることなどなかった。

川で取った魚や、襲いかかってきた魔獣を焼いて食べたり、木の実は食べたが、パンなど誰かが手を加えて作ったものなど、久しぶりに口にした。

昨日もギルドの酒場ではエールを一口口にしただけだったしな。


俺には食事を楽しむ権利などない。

それでも食事をやめることができない俺は、本当にどうしようもない人間だ。

俺など、もっと苦しめばいいんだ。



「どうした?苦手なものでも入っていたか?」


一口食べて止まってしまった俺に、ギルマスが心配そうに声をかけた。


「いや、なんでもない。」


俺のわがままで、ギルマスのせっかくの厚意を踏み躙ることはできないと、サンドイッチを口に運んだ。


周りを見ると、みな楽しそうに食事をしながら談笑していた。

きっと彼らは、取り返しのつかないような間違いなど起こすことなく生きてきたんだろう。そしてこれからも・・・。


しかし俺は・・・



俺は生きているだけで罪なのに。彼らを羨ましいなど思ってはいけないのに。

世の中の大半の人間は、取り返しのつかない間違いなど犯さないんだろう。

俺はここにいていい人間じゃない。

このような者たちと同じ場所で食事を取れるような人間ではないんだ。


急に居心地が悪くなって逃げ出したくなった。

だが、これも俺がいまだに生きている罰だと思って耐えた。



しかし、長くは続かなかった。



「他に逸れたオークがいないか見てくる。」


俺は立ち上がると、その場を後にした。

また逃げ出したのか。俺は。本当に情けない奴だな。反吐がでる。


一応形だけ索敵を使って皆から離れていった。


1人の方がまだ楽だ。

朝でも夜でもないが、空にいるであろう彼女に向かって膝を付いて懺悔と祈りを捧げた。




あまり遅くなるのも不自然だろうと思い立ち上がると、索敵に引っかかった。


ん?オークだな。まだいたのか。

仕方ない。狩っていくか。


俺は2体のオークをサッと倒した。

そしてオーク2体を担ぐと、皆の元へ戻った。



「リオ、それはどうした?」

「あぁ、その辺を彷徨いていたから狩ってきた。」


「そ、そうか。よく1人で2体も担げるな。それほど筋骨隆々というわけでもないのに凄いな。」

「いや、これぐらいなら誰でもできるだろう。」


「いや、できねぇよ。」



そんな話をしていると、回収のための荷車を引いた者が到着した。

荷車にどんどんオークを積み上げていく。


低ランクの者たちが回収の依頼を受けているようで、彼らの仕事を取るわけにはいかない。

俺は、彼らがゆっくりバランスをとりながら荷車を引いていくのを黙って眺めた。


街道へ出るまでは道が悪く、移動はかなり遅かったが、街道まで出るとようやく普通に歩くスピードで移動できるようになった。



「リオ、報酬を受け取ったらすぐに出立するのか?」

「あぁ、そのつもりだ。」


「そうか。急いでるのに討伐を手伝ってもらって悪かったな。」

「いや、いいんだ。」


「この話はまた吟遊詩人たちのネタになりそうだな。

俺たちはリオの歌を聞くたびにお前のことを思い出すだろう。」

「・・・。」


俺のことなど思い出さなくていい。こんな俺のことなど、さっさと記憶から抹消してくれて構わないのに。そうでないと、彼らに不幸が訪れそうで怖い。

俺のせいで・・・。


本当に俺はどうしようもないな。


ギルドまで行くと、すぐに報酬の計算をしてくれた。

討伐に参加した者たちは、ギルドに着くとそのまま酒場で宴会をするようだった。


しかし、俺はそこには加われない。

加わるよう何人かから誘われたが、俺がいれば酒も不味くなるだろう。


彼らの気持ちを無下にしないよう、丁寧に断ると、掲示板の横にある地図を眺めた。


そして、報酬を受け取るとギルドを後にし、そしてその足で街を出て森に入った。


さようなら。

俺は再び南へ向かって足を進めた。

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