09.2度目のクエスト1/2

翌朝、街の門の前に向かうと、俺を見つけた冒険者たちから歓声が上がった。

なんだ?



「リオさーん。」

こっちに駆けてくるのはマルコと呼ばれていた男だった。

もう走れるほどに回復したのか。よかった。


「リオさん。本当にありがとうございました。リオさんは命の恩人です。

旅の途中だと聞いていますが、もし次にお会いすることがあれば、どうかお礼をさせてください。」

「分かった。」


「俺たちはまだDランクには届かないので討伐には参加できませんが、討伐頑張って下さい。」

「あぁ。マルコ、元気になってよかったな。」


「はい!本当にありがとうございました!」


マルコは俺に頭を下げると、街に向かって走って行った。




「お前がリオか?」

「あぁ。そうだが何か用か?」


知らない男が声をかけてきた。筋骨隆々という感じで強そうな男だ。


「いや、もっと屈強なゴツい男かと思っていたから、意外だと思ってな。」

「なぜそう思った?」


「ゴブリンから街を救った英雄譚の主人公だと聞いていたからな。」

「なんだそれは?どういうことだ?」


「知らんのか?今流行りの吟遊詩人の歌だ。ゴブリンの群をほぼ1人で斬滅したリオってのはお前じゃないのか?」

「・・・。」


なぜだ。俺が英雄など、悪い夢を見ているようだ。

俺はふらついて倒れそうになって、頭を抱えてしゃがみ込んだ。



「おい、大丈夫か?」

「あぁ。」


もう逃げたい。こんな辱めを受けるなど考えたこともなかった。

いや、これも彼女へしたことの罰なのかもしれない。きっとそうだ。

苦しいが、受け止めるしかないのだろう。



しかし、こうも目立つとそれはそれで困る。

討伐が終わったらすぐにこの街を出て、そのまま国を出よう。

そうするしかない。



ギルマスが到着すると、オークの群の内訳が発表された。

オークは全部で25、上位種はオークナイトとオークジェネラルが確認されたが、近づくことができず数までは把握できなかったそうだ。


俺は鬱々とした気分のまま歩みを進めた。




「リオ、話題になっているぞ。英雄が街に来たとな。」

「俺は英雄などではない。やめてくれ。」


ギルマスが楽しそうに話しかけてきたが、俺は楽しいという感情など遠い昔に捨ててきた。

例え楽しいという感情をまだ持っていたとしても、楽しいと思うことはないだろう。


1時間ほど街道を歩き、更に森に入って2時間ほど歩くと、オークが群を作っているという洞窟が近づいた。

俺が索敵を広げると、25と言われていたオークは37体おり、ジェネラルが1体にオークナイトとハイオークが合わせて10ほどいた。


「ギルマス、情報が誤っている。オークは全部で37、ジェネラル1にハイオークとオークナイトが合わせて10だ。」

「何!?なぜ分かる?」


「索敵を使ったからだ。」

「ふぅ・・・そうか。さすがだな。」



ギルマスはすぐに皆に周知した。


「リオはジェネラルを倒せたりするか?」

「分からん。1人で向かったことはない。」


「そうか・・・。」


オークの群が確認されて軍が出動するような場合はだいたい50を超える規模の群だったし、ジェネラルと戦ったことはあるが、1人で倒すことなどなかった。


「ランクでチームを分けよう。

Dランクの者は複数人で連携して1人にならないように。そして上位種には当たらないよう気をつけろ。

Cランクは連携してハイオークやオークナイトを中心に。

Bランク以上はジェネラルに向かってほしい。」


「ギルマス、ちなみにBランク以上は何人いるんだ?」

「リオ、ニコロ、ドメニコ、俺の4名だ。」


ニコロは昨日話しかけてきた奴で、ドメニコは今朝話しかけてきた奴だった。

ギルマスも戦うのか。武器はレイピアか?


オークか・・・オークと戦うならロングソードを用意すればよかったな。



「リオ、リオは風を使えるんだよな?」

「あぁ。使える」


「入り口の見張りを倒したら、入り口に火を焚いて煙を洞窟の中に流して奴らを外に出したい。」


「分かった。やってみる。」



俺はそう言うと、風の刃を飛ばして入り口にいた2体の見張りをサクッと倒すと、火球を風に乗せて洞窟に放り込んだ。



「え?」

「何か間違えたか?」


ギルマスの反応に何かおかしいことがあったのかと思い聞いてみた。


「あ、いや、間違えてはいないが、1人で全部やるとは思っていなかった。

これから焚き火用の枝を集めて、何人かで見張りを倒して、入り口で焚き火を焚いて風で煙を中に入れようかと思っていたんだが。

リオはそれを1人でやって退けるんだな。そうか。さすがだな。」

「すまない。みんなの仕事をとってしまって。」


「いや、上手くいくか分からなかったからありがたい。」

「そうか。」



そうだった。俺は協調性がないんだ。

だから軍でも隊長や上官に疎まれ、将軍直属になったんだったな。


一見すると単独行動していそうな冒険者と言えど、社会で生きてくには協調性が必要になるんだな。

俺はどこへ行ってもダメなんだな。


何もかもが間違っている。いまだに生きていることも、きっと間違いなんだろう。



しばらくするとオークがわらわらと洞窟から出てきた。


「先ほど言った作戦通りにいくぞ。Dランクの者たちは無理をしないよう気をつけてくれ。できるだけ早くジェネラルや上位種を倒して援軍にくる。それまでどうか耐えてくれ。」



オークはどんどん出てくる。

最後に、オークナイトに囲まれたジェネラルが出てきた。その周りにはハイオークも配置されている。


そうだったな。ノーマルの層を切り崩しながら上位種に向かって、そして上位種も切り崩さないとジェネラルには辿り着けない。



「行くぞ!」


ギルマスの声で全員が駆け出した。オークもみんなに気づいて体制を整えている。


俺はそんなことには構わず、まずオークの層を切り崩しながら進んでいく、次にハイオークを倒し、オークナイトに辿り着くと2回ほど剣を交えてから倒し、ジェネラルに向かった。


ジェネラルと言えど所詮オークだ。知能は大したことはない。

一気に間合いを詰めて首を切り付けるが、浅かった。


一度引いて、もう一度間合いを詰めると、今度は心臓に向かって体重をしっかりかけて剣で貫いた。

倒れていくジェネラルを横目に、残ったナイトに斬りかかる。


ナイトを倒す合間に、Dランクと思われる者たちがノーマルオークに囲まれているのを見つけ、そこへは風の刃を飛ばした。

間も無くナイトは全て倒れたため、ハイオークの層まで戻ってサクサクと倒していく。



なぜか動きを止めているギルマスやニコロ、ドメニコ。

何をしているんだ?

他の者が必死にオークと戦っているというのに。



ハイオークを倒し終わると、もう剣を使う必要もないだろうと、風の刃をそこら中に飛ばしオークの体力を削っていった。


彼らの功績を横取りしてはいけないと、ちゃんと致命傷にはならないよう手足を狙った。

もう俺の役目は終わっただろう。


俺は引いて危なそうな箇所にだけ風の刃を飛ばした。


引いた場所から戦況を見守っていると、しばらくしてオークの群は全滅した。




ワアァァァァァァア

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