05.初めてのクエスト


街道など通っても意味はない。森に入りただひたすらに道なき道を南へ向かった。



朝晩の彼女への懺悔と祈りだけは忘れない。

魔獣と出会でくわせば、その場で討伐して穴に埋めるか、一部を切り取って焼いて食べた。


彼女の元に行くまでは生きていたい。

だんだん俺はそう思うようになっていった。

いつも死にたいと、殺してほしいと思っていたのに。俺は彼女のことが今でも好きなんだろう。

どうしても最期に、彼女が眠る墓石で構わないから会いたいと思った。




そうして何日走っただろうか。

川があれば川に入って体や服を洗っていたが、服がボロボロになってきたため街に向かった。



ギルドカードを見せて街に入ると、服屋を探して店に入った。

どれでもいいが、とにかく破れにくく丈夫なものがいい。

ずっと走っていたからか、靴底もかなり擦り減っていたため、ブーツも新しいものにした。



そうか。冒険者ギルドに寄れば地図が見れるんだったな。どの辺りまで進んだか確認してみるか。


俺は冒険者ギルドに入ると、受付でカードを見せて地図を見たいと告げた。


「地図ならあの本棚の横に貼ってあるのでご自由にどうぞ。」

「分かった。」


貼り出してあるのか。それならわざわざ冒険者登録をしなくても見れたんじゃないか?

地図を見てみると、順調に南へ進んでいることが分かった。

あと10日か2週間も進めば国境に辿り着けそうだ。



『緊急クエストです。大規模なゴブリンの群が発見されました。冒険者の皆さんは出来る限り参加してください。』



ゴブリンか。俺も参加する必要があるのか?

受付に聞いてみるか。


「俺もゴブリン討伐に参加する必要はあるか?」

「他に急ぎのクエストを受けていないのであれば参加してください。

リオさんBランクですよね?何か参加できない理由があるんですか?」


「いや、別にない。」

「そうですか。では参加してください。」


「討伐はいつだ?」

「明朝です。偵察が出ているので、門の外に集まってもらえればその時に詳細な情報をお伝えします。今確認できている情報でも200を超える群だそうです。上位種もいるようですが、数はまだ分かっていません。」


「分かった。」


軍の遠征のように準備に数日かかるようなら、何らしかの理由をつけて断ろうと思っていたが、明朝ならまぁいいか。



俺はそのまま街を出て森に入り、一夜を明かすと門の前に向かった。


集まった冒険者は70名ほどか。

代表者と思われる男の隣に秘書らしき女が立っており、そこで受付をするよう言われた。


「ギルドカードを見せていただけますか?」


俺はその女にギルドカードを見せると、一瞬驚かれた。

なんだ?


そして隣にいた代表者の男に何かを小声で話した。


「Bランクのリオというのはお前か。来てくれて助かる。

ここの街には上位のランクの者がいなくてな。いや、1人もいないわけじゃないんだが、今は護衛依頼で街を離れているんだ。」

「そうか。」


「頼りにしているよ。俺は低ランクの者を見ながら指示を飛ばしていくが、リオは自分の判断で好きなように動いてくれて構わない。」

「分かった。」



『集まってくれた者たち、ありがとう。

昨日偵察に向かった者からの報告では、ゴブリンの数は230。

上位種として、ゴブリンナイトやゴブリンメイジ、そしてゴブリンキングがいるそうだ。』



ザワザワ


そうか。高ランクの者が不在だと言っていたな。

ゴブリンキングと聞いて恐れをなしたのだろう。悲痛な顔をする者もいた。

俺は上位種を適当に倒して、あとは風で薙ぎ倒す感じでいいだろうか。



3時間ほど足早に進むと、ゴブリンが無数にいるのが確認できた。なるほど。廃村に棲みついたか。


「いくぞ。危なくなったら引いていい。出来るだけ俺がサポートするが、無理だけはするな。」


代表者の男が注意を促す。




グギャギャギャ


俺は見張りのゴブリンが駆けていく先を見つめた。

そこにボスがいるということだな。


朽ちて壊れた柵を飛び越えて村に入ると、ゴブリンが一斉に向かってきた。

風で薙ぎ払いながら通り道を確保すると、先ほどのゴブリンが向かった先に急いだ。



奥にある1番大きい建物に入る。

こいつがボスか。ゴブリンキングだと言っていたな。

初めて見た。


ゴブリンキングの周りには、さっきの雑魚っぽいゴブリンよりは少し強そうな剣を持ったゴブリンや、杖のような木の棒を持ったゴブリンが取り囲んでいた。


これがナイトやメイジと呼ばれるやつか?

俺は一気に風の刃を使ってゴブリンたちを薙ぎ払うと、立っているのはゴブリンキングだけになった。

そこで一瞬で距離を詰めると、相手が戦闘に入る前に心臓を貫いて倒した。


この倒れた奴らも、もう死んでいるだろうが念のためと、心臓を突いて回った。



外に出ると、何体か雑魚ではないゴブリンが確認できたため、そいつの元に一瞬で飛んで仕留め、あとは冒険者がいない方角に向かって風の刃を飛ばしてゴブリンを倒した。

そして、それほどかからずゴブリンの群は全滅した。



ワアァァァァァア



「キングや他の上位種はどうなった?」

「あの建物で全部倒したから心配ない。」


「そうか。一緒に行ってくれるか?」

「あぁ。」


俺がその代表者の男を建物に案内すると、男は数を数えて何かにメモを取っていた。



「リオ、お前Bランクなんだよな?」

「あぁそうだ。」


「なぜだ?AかSじゃないのか?」

「Bだ。実績がないからな。」


「なるほど?まぁいいが、助かった。本当に思った以上に上位種が多かったから、何人かやられるんじゃないかと思ったが、リオが上位種を素早く倒してくれたおかげで誰も死なずに済んだ。」

「そうか。」



死なずに済んだか・・・

俺は何をやっているんだろうな。


一番救いたかった者の命を奪っておいて、贖罪しょくざいのつもりか?

いや、贖罪など・・・俺の罪の重さはどれだけ徳を積んだとしても許されるわけはない。俺はこの重い罪を背負っていかなければならない。



俺は、苦しみ抜かなければならない。

俺のような奴は、永遠に苦しみ続けなければならない。



「村の中央にゴブリンを集めて、2度とここに魔獣が棲みつかないよう村ごと燃やそう。」

「分かった。それでは全員を村から一旦出してくれるか?」


「ん?分かった。」


『みんな一旦村から出てくれ。』



俺はみんなが村から出たのを確認すると、トルネードを起こしてゴブリンたちを村の中央に集めた。建物も崩壊してトルネードに巻き込まれバラバラになったが、どうせ燃やすんだから問題ないだろう。

そして俺も村から出ると、業火の炎を出して一気に燃やし尽くした。


「「「・・・。」」」


「終わったぞ。」

「あ、あぁ。では帰るか。」


「リオは旅の途中なのか?」

「あぁ、そうだ。」


「そうか。では引き止められないか。」

「・・・。」


なんだ?冒険者登録をした街でもギルマスのトゥアロに言われたな。

なんだって冒険者ギルドは俺を街に引き止めようとするんだ?

全く分からん。元々地図を見るためだけに寄ったんだ。

すぐに街を出よう。目立つのもよくないからな。


そのまま旅立ってもよかったのだが。ギルドに寄ってくれと言われたため、ギルドに行くことになった。報酬を受け取りギルドを出ると、その足で街を出て森に入り、南を目指した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る