04.リオの実力

別に急ぎの用事があるわけでもないから了承したが、冒険者ギルドというところは、本当に何がしたいのかよく分からないな。

俺はただリーベルタ王国の方角が聞きたかっただけなのに、登録するだけでこれほど面倒なことになるとは思っていなかった。


俺がトゥアロと外に出ると、セーリオと呼ばれていた最初の試験官や、見学していた何人かも付いてきた。



「何を相手すればいい?」

「あまり弱いと参考にならんからな。グリズリーや大型の鳥系が見つかればいいが。」


「分かった。」


俺は索敵を広げた。軍でまだ入隊したばかりの頃にしか使っていなかったから、使うのは随分久しぶりだが、問題なく使うことができた。

そして俺は真っ直ぐ道なき道を、索敵にかかったグリズリー目掛けて足早に進んで行った。


走れば早いが、付いて来ている者たちを置いていくわけにはいかないからな。

ショートソードで枝や背の高い草を薙ぎ払いながら進んでいく。



「リオ、獣道でもなく道のないところを進んでいるように見えるが、どこかを目指しているのか?」

「あぁ、グリズリーを目指している。あと5分も進めば見えるだろう。」


「まさかリオは索敵も使えるのか?」

「それほど得意ではないが使える。」


「そうか。」


ズンズン進んでいくと、川で魚を漁っている2体のグリズリーが見えた。

胸の辺りの毛が赤いからレッドグリズリーか。 



「倒すがいいか?」

「あぁ。いいが2体いるぞ。片方は俺らが相手しようか?」


「いや、とりあえず俺だけでいい。厳しければ一旦引くから、その時は頼む。」


レッドグリズリーは何度も相手したことがあるが、1人で相手するのは初めてだった。魔獣討伐の遠征に行く時には、1人で行くわけもないし、単独行動は禁止されていたからな。



俺がショートソードを抜いて近づくと、レッドグリズリーも俺を認識し、餌だと思ったらしい。川から出て一瞬で間合いを詰められた。


振り上げられた丸太のような太い腕、さっきは腕を川の中に入れて4足歩行の体勢だったから分からなかったが、目の前で立ち上がると3メートルを軽く超えるような巨体だった。


残念だが、こいつら程度では2体いたとしても俺を殺してくれるほどの強さはない。

また死に損なったか。そう思いながら飛び上がり、首元から脳天に向かって剣を突き上げた。

まぁそれだけだった。


もう一体は腕が邪魔をして剣を突き刺すことができなかったため、一旦腕を切り落とし、ガラ空きの胸に向かって剣を突き刺した。



「トゥアロ、終わったぞ。これは持ち帰るのか?持ち帰るなら血抜きをするが。」

「あ、あぁ。持ち帰れるなら持ち帰ろう。」



俺はグリズリーを川へ突き飛ばすと、首の太い血管を切り裂いて血抜きを始めた。

血抜きはそんな一瞬でできるものではない。

このまま血抜きできるまでここにいるんだろうか。軍であれば何人か残して行軍を進めるか、ここを野営地とするが、どうするんだろうか。


「血抜きには時間がかかるぞ。」

「あぁ。そうだな。今日は戻って明日、手の空いた者に取りに来させよう。

そこの、明日まで見張りを頼めるか?もちろんクエストだ。報酬も出るぞ。」


トゥアロが付いてきていた男数名に声をかけると、その者たちはクエスト?というものを受けたようだ。



「・・・リオ、お前は何者だ?それほどの腕、誰かに師事していたのか?」

「いや、誰にも師事したことはない。軍学校に通い、軍に10年ほど所属していた。」


「あぁ、なるほど。

しかし、それほどの腕なら隊長などの役職があったのではないか?」

「全て断っていたから俺はただの兵だ。」


「そうか。退役した理由は聞かないが、なぜ冒険者になろうと思ったんだ?

それだけの実力があれば、貴族の護衛や騎士にでもなれただろう。」

「冒険者になろうと思ったわけではない。冒険者ギルドという場所も今日初めて知ったところだ。

俺はただ、リーベルタ王国の方角を聞きたかっただけだ。登録しないと地図を見せてもらえないと言われて登録しただけだ。」


「そうなのか。こんなところまで付き合わせて悪かったな。ギルドに戻ったら地図を見せよう。

しかし、なぜリーベルタへ行きたいんだ?」

「俺の故郷だからだ。」


「ん?リーベルタの軍に所属していたわけではないのか?」

「違う。俺が所属していた軍はリーベルタではない。」


「そうなのか。まぁしかし故郷に帰りたいという気持ちは分かる。

そうか、リオをここに引き留めることはできないんだな。」


俺を引き留める?何のために?やはり冒険者ギルドというところはよく分からないな。そして自分のことを話しすぎた。早めに街を出た方がいいかもしれない。



俺とトゥアロとセーリオとあと数名を連れて、来た道を通ってギルドまで戻った。

門番にトゥアロたちと同じようにギルドカードを見せると、街へ入る際の金が要らなかった。

これは便利だな。

金など惜しくはないが、身分を証明するものがないと街に入るのにも時間がかかる。



ギルドに着くと奥の部屋に通され、ギルドカードを渡すと、ランクアップの手続きをされた。


「とりあえず俺の権限でBまで上げる。実力的にはAかもしくはSが妥当だが、実績がないとA以上に上げることはできないんだ。すまん。」

「いえ。」


俺は冒険者ギルドの仕組みが分かっていないが、急にランクアップなどしてもいいのだろうか?

ランクというのは何だろうか。軍の階級のようなものだろうか。

さすがに隊長などという役割はないだろうが、余計な責任がつくのであれば辞退したい。



「Bランクになると何があるんだ?ランクを上げるというのは何かメリットがあるのか?」


「あぁ、そういえばリオは登録したてだったな。

ランクは下はGから上はSSSまで一応ある。SSSランクとSSランクは今はいないから、Sランクが一番上だが、ランクは強さの指標になる。高ければ高いほど強いということだ。

メリットはクエスト、つまり依頼を受ける幅が広がる。例えばさっきのグリズリーはCランク以上の者でないと討伐の許可が出ない。例え運よく倒しても、Cランク以下の場合は評価されない。

 

護衛にしても、誰でも強い者に守ってもらいたいと思うが、高ランクを指定すると依頼料が高くなる。ランクが上がればその者の価値が上がるということだ。

デメリットは特にない。下のランクの者を指導したりリーダーとしての役割をする必要もない。指導や指揮をしたいなら歓迎だが。」


「そうか。分かった。」


デメリットがないなら、そのまま受け入れるか。

今後、冒険者ギルドに関わるかどうかも分からないが、とりあえず街に入る時はカードを活用させてもらおう。



そんな話をしていると、手続きされたカードと地図が届けられた。

地図を見ると、リーベルタ王国はこの国ヌーボラから西の方角だった。

軍に所属していた国は・・・、そうだこれだソーレ帝国だ。帝国を出てから東へ東へと走ってきたが全く逆の方角だったようだ。


ここから真っ直ぐ西へ進むとソーレ帝国に入ってしまう。

ソーレ帝国では皇帝の命令に叛いているから、見つかれば捕らえられるだろう。

そのまま殺してくれるならそれでもいいが、どうせ死ぬなら彼女の側で・・・という思いが湧いてしまった今、捕まって処刑されるのは避けたいと思った。


それに、処刑されるならいいが、隷属の首輪などを付けられて、死ぬことも許されずに従わされるのは困る。俺は長生きなどしたくないんだ。



ソーレ帝国は避けて進むか。

一旦南に進んで、国境を越えて、そして西に進めばいいか。

北から迂回する方が近いが、そっちは帝国と戦争をしているから、今はあまり関わりたくはない。

帝国から偵察に入っている兵などに見つかる恐れもあるしな。


それに、やはり戦場で死ぬよりは、彼女の側で最期を迎えたいと思った。

俺に、人生で最初で最後の目的ができた瞬間だった。

無駄死にするくらいなら、せめてこの命を彼女に捧げよう。



ギルドでカードを受け取って、地図を見せてくれたお礼を告げると、帰りに受付に寄るよう言われた。

受付に寄ってカードを見せると、レッドグリズリーの買取りとして金貨を2枚くれた。

それを受け取ってギルドを出ると、俺はその足で街を出て南へ向かった。

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