17.犯罪組織


「ねぇねぇ、パパは?」

「分からないの。どこかへ連れて行かれたのは分かるけど、どこへ連れて行かれたのかは分からない。」


衛兵が敵ではないであろう無抵抗な人たちに話を聞くと、皆、身内の誰かを人質に取られて無理やり働かされていたらしい。

人質の居場所も分からないし、他にも人質を取られて働かされている人がいるという話だった。



労働者と人質を離すのは分かるが、労働者を何ヶ所かに分けるとは思えない。

主要な拠点はこの街ではないのかもしれない。


それに、彼らを助け出したとして、人質を取られている状態の彼らに抵抗するのは無理だ。

本体を叩かなければ、またここに戻されてしまうだろう。

この親子も同じだ。また子供を狙われ、母親も拐われる。この子が死ぬようなことがあってはならない。


乗りかかった船か・・・

せめて、助けられなかった彼女の分、この子を助けよう。

もちろんそれで許してもらえるなどと思っているわけではない。

どうせ死にゆく命なのだから。

それを少しこの子に使ってあげるくらいはいいのではないかと思った。



馬鹿だな俺は。

そんなことをして何になるのか分からない。しかし、やはり道を踏み外し続ける俺のようなクズを野放にしておくなどできないと思った。



「なぁ、拠点はこの街じゃないんじゃないか?」

衛兵に話しかけた。


「デリオー、なぜそう思う?」

「働かせる者と人質を分けるのは分かるんだが、働かせるものを複数の拠点に分ける理由がない。その分見張りが必要になるし、そう考えるとこの場所は小さすぎるし本部は別のところにあると考えるのが妥当だと思った。」


「なるほど。まるで過去にもこのような犯罪組織の壊滅を行ったことがあるような言い方だな。」

「まぁ、実際にあるからな。」


「そうなのか?冒険者でもないんだろ?元衛兵とかか?」

「いや、他国だが前に軍に所属していた。」


「あ~なるほど。だからそんなに強いのか。納得がいった。

しかしな・・・俺たちはこの街の衛兵だから、他の街に行って偵察をしたり、敵の拠点を囲んだりはできないんだ。」

「そうだろうな。君たちがこの街を離れるのも問題があるだろうしな。

仕方ない。俺がなんとかしてくる。」


「え?1人でか?」

「他に頼れる者や仲間もいないし、規模にもよるがどうにかなるだろう。では俺は街を出る。じゃあな。」



矢のやつと接触した奴は、ここに来る前にもう1人と接触していた。

その相手にもマークをつけていた。そいつが先ほど街を出たのを確認している。

恐らくこの拠点が落ちたのを本部に伝えに行くのではないかと当たりをつけている。

俺なら1人で森を抜けられるし、慣れている。索敵でマークしたまま森を抜ければ、見つかることもないだろう。


俺は索敵範囲からマークした奴が外れないうちにすぐに街を出ると、森に入って奴を追った。

それほど遠くはないだろう。



奴は俺とは街道を挟んだ反対の森に入って行った。

そして、どんどん森の奥へ進んでいくと、廃村と思われる朽ちた家が並ぶ中に新しい建物があった。


こんなところに拠点を作っていたのか。廃村を拠点にするなど、まるでゴブリンだな。

馬車も置いてあり、馬も何頭かいた。


ここに働かされているものや人質が全て居ればいいんだが、どうかは分からない。

とにかく助け出せるものだけ助けて、情報を得られれば、また他の拠点にも行ってみるか。


日が暮れてきているが、もっと暗くなってからにしよう。

どれほどの人が捕らわれているのか分からないし、中の様子を確認してから突入したい。



軍の時は楽だった。

偵察の担当が調べてくれたし、隊長が突入の指示も出してくれた。

俺はただ誰かに殺されればいいと思いながら、敵を薙ぎ倒すだけでよかった。被害者の救助も担当がやってくれたしな。


なんだ。きついと辛いと思っていたが、軍は案外楽な生活だったのかもしれない。

そんなところでのうのうと10年も生きていたなんて、本当に俺はどうしようもない。

どうか、誰かこの俺の胸を切り裂いてくれないだろうか?




完全に日が落ちると、気配を消して建物に近付く。

聞き耳を立てて中の会話を聞いてみる。


「街の拠点が落ちたんだとよ。」

「あそこはいつか見つかると思ってた。街の中心だからな。」

「だよな。隠れ蓑に少し使うならいいが、捕らえた奴を置いておくには向かないよな。」

「一度で運べなかったらしいぞ。それで置いてきたとか。」

「それくらい計算しろよな。」


「人質を取るのに失敗した奴が馬鹿みたいに捕まったらしいな。」

「あぁ、あの使い捨ての駒だろ?」

「あんな奴らは捕まっても何の情報も持ってないから別に構わんだろ。」

「衛兵の詰所を襲撃した奴も捕まったんだったな。」

「あぁ、新入りの女か。馬鹿だな。」


「あの塔に置いている弓が、仕留められなかった謎の男が居るらしいぞ。そいつが衛兵と一緒に行動しているらしい。」

「何だそれは誰だ?情報は?」

「男で強いということしか分かってないらしい。街に入るのに金を払って入っていたとか。」

「冒険者でも騎士や護衛でもないし、街の住民でもないってことか?」

「それは情報を得るのは難しいな。」


俺のことか。



「なぁなぁ、最近流行ってる隣国から流れてきた吟遊詩人の歌を知ってるか?」

「知らんな。」

「街に行った時に聞いてみるといい。ヌーボラの英雄譚だとよ。そいつがアランシアを抜けてこの国に来ているんじゃないかって噂がある。」

「へー」


俺のことだよな?なぜだ?なぜバレた?

いや、まだ噂の段階か。

それにしてもよく喋るな。そうか。ここなら見つかることもないと思って気が緩んでいるのか。それは好機だ。


しかし俺も国境を抜けたことで気が緩んでいたらしい。

この国入ってからはリオという名は使っていないから大丈夫だと思っていたが、早めにここロンディネも抜けた方が良さそうだな。

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