7月15日から17日 今を楽しむ

27.渡し守

 昨夜公開した動画は、時間が遅かったのに今朝には千単位で視聴されてた。

 当然、いい評価ばかりじゃなくてけなすだけのコメント、罵倒とも言えるようなものもあるけど、大炎上とかしない限り大丈夫。アカウントもいわゆる捨てアカだし。


 一番心配している製作者こちらを特定したがる動きもなくて、ほっと一安心だ。


 視聴した人の中から一人でも「ダークネス・フローム・フォレスト2」をプレイする人が出てきたらラッキー、ぐらいだな。


 動画の方はうまくいった。


 さて、今日はクリスと川下り体験に行くことになっている。

 近所、といっても電車含めて二時間ぐらいの距離だけど――に川下りをやっているところがあって、クリスが興味を示したんだ。


「いってらっしゃい。気をつけてね」


 ご機嫌の母に「軍資金」までもらえて俺はラッキーだ。

 けど。


「さっさとくっついちゃいなさいよ」


 出かける前にささやかれたのに苦笑しか漏れない。

 否定してもうるさいだけだから曖昧に笑ってごまかして、家を出た。




 連休とあって道中も結構な賑わいだ。めちゃくちゃ混んでいるわけでもないけど予想以上だった。


 くそ暑い中で涼しい体験とあって、川下りも人気だ。

 一時間近く順番がくるのを建物の中で待ってから、やっと順番が回ってきた。


 待っている間もクリスは物珍しそうにあちこち見ては、疑問に思ったことや感想を小声でささやいてくる。

 異世界を堪能しているみたいでなによりだ。


 さて、観光客十人ほどと船頭二人を乗せた舟が川を下り始めた。


 最初はゆったりとした流れにたゆたっていた舟も、川幅が狭くなり流れが速くなると急にスピードを増して上下左右に大きく揺れる。そのたびに客からは大きくて楽しそうな悲鳴があがる。

 もちろんクリスも、俺も、遠慮なく歓声を上げた。


 なんか、こんな大きな声だしたの、いつぶりだろう。

 思ってたより激しくて、思ってたより楽しい。

 日差しは暑いけど、しぶきがかかって気持ちいい。


 しばらくして、また流れが緩やかになる。川幅も広くなって、のんびり観光タイム、ってところだ。


 春とか秋とかに来たら、桜とか紅葉なんかが楽しめるんだろうな。

 そんな話をクリスにすると、いいなぁ、秋にまた来たいなとか言ってる。

 観光のために異世界渡りとか、他の神官さん達に迷惑だからやめて差し上げろ。


 一時間ほどの川下りが終わって、クリスは晴れ晴れとした顔で船を降りた。


「あぁ楽しかったぁ」

「そりゃなによりだな」


 ふと疑問に思ったので、ミナリィエにはこういうのはないのかと尋ねてみた。


「観光としては、ないですよ。渡し守って呼ばれている職業はありますが、それは……」


 クリスがそっと耳に口を寄せてくる。


「ご遺体を運ぶ――」

「みなまでいうな」


 そういえば前にそんな話したよなっ。忘れてたのにまた流しそうめんみたら複雑な気分になるじゃないか。

 尋ねたのが俺だからクリスに文句が言えないのが痛い所だった。

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