7月8日 隠匿?
08.こもれび
クリスが押しかけて来た次の日。
今日は大学のサークル活動が午前中だけだから昼過ぎに帰って来た。
クリスが、庭に続く大窓の近くに椅子を出して座っている。
木漏れ日が陰影を作り出す彼女は、黙っていると美人だ。
「明くん、おかえりなさい」
俺に気づいたクリスがこちらに顔を向けて微笑む。
うん、そうやってると美人だ。
「ただいま。そんなとこで何やってんだ?」
「思い出せそうな気がしていたので、思い出そうとしていました」
世界の危機、か。
「この庭の木によく似た木がたくさん生えていた森のようなところで、戦った先に……」
静かな声、真剣なまなざし。
これは、思い出せそうなのか?
ごくりと唾をのんでクリスをじっと見る。
「……あぁ~、駄目、思い出せません。記憶にもやがかかっているみたいになってて」
がくっと拍子抜けだ。
ポンコツめ。
「そもそも、何と戦ってたんだ?」
「それはもちろん、世界を混乱と混沌に陥れようとする魔王軍です」
そこは即答なのな。
そういえば「ダークネス・フローム・フォレスト」もそんな設定だったかな。
……あれ? 子供のころにやりこんだっていっても、世界観とかあんまり覚えてないな。……なんでだ? あんなに遊んだのに。
で、クリスはそのゲームの続編のヒロインで、神官戦士だっけ。
今朝、俺が家を出る時に「今日が明くんにとって良き日となりますように」と手を組み合わせて祈ってくれた姿は、本当に神官っぽかった。
なんだか本当にいい事がありそうな気さえした。
着ているのが母のTシャツとトレパンなのが台無し感すごかったけど。
「早く思い出せるように、わたしも外に出てみようかなと思います。家の中でも「はいてく」のおかげでたくさんの情報を得られそうですが、ミナリィエはどちらかと言うと自然の多い世界なので」
はいてく、って言い方がちょっと面白くて笑った。
「外に出るのはいいけど奇妙な踊りとかやめとけよ」
「あれは魔法の詠唱を省略するための舞いなので、そんな滅多にやりません」
舞い、ねぇ。物は言いようだな。
クリスも一応頑張ろうとしてくれているみたいだし、俺ももうちょっと「ダークネス・フローム・フォレスト2」の情報を探してみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます