16.レプリカ

 今日の講義が全部終わってメールをチェックしたら、クリスから入ってた。


『爆弾が仕掛けられているということなので、魔族の魔力を探ってみることにしました。明くんの大学近くに小さなものですが感じるので、そちらに向かいます。場所はおばさまに聞きました』


 送信時間を見ると最後の講義が始まってからすぐだった。

 迷わなければ、そろそろつく時間だ。

 けどあいつ、モバイルの連絡手段持ってないよな。合流するのどうしようか?


 とか考えてると、メッセージアプリに着信だ。


『おばさまにスマホ借りました。大学の正門前にいます』


 ナイス母! 帰ったら本気でほめたたえようか。


「明はすぐ帰る?」


 友人に話しかけられてうなずく。


「知り合いがこっちに来てるみたいだから、俺もう行くわ」


 クリスと一緒にいるのを見られるといろいろややこしそうだから、それじゃ、と先に教室を離れた。


「あ、明くん、こっちです」


 正門のところで手を振っているクリス。目立つからやめろ。


「……で、魔力を感じるのってどこだ」


 顔を少し寄せて、できるだけ小さい声で尋ねた。


「大学の裏手の――」

「明―、そういうことか」

「いつのまにカノジョつくってたんだー?」


 クリスの声にかぶる友人のそれに、ぎょっとなる。

 振り向くとゼミ友が二人、にやにやしている。


「カノジョじゃない。幼馴染だ」


 本当はそれすらも違うけどな。


「あー、幼馴染か」


 だから違うっての!


「はじめまして。クリスといいます。明くんお借りしますね」

「どうぞどうぞ、持ってっちゃって」


 人当りのいいクリスの笑顔に、笑い方がにやにやからデレデレに変わってる。

 やめとけよ、こいつ想像以上にポンコツなとこあるからな。


「早く用事済ませて帰るぞ」

「あ、はい。それではさようなら」


 ゼミ友からさっさと離れて、大学の裏手に回る。


 裏門の方は細い道しかなくて夕方に通るにはちょっと心細いためか、この時間、特に女性はほぼいない。

 それでも最後の講義が終わったばかりでまだこっちを利用する学生はいる。


 人がいなくなるのを待っている間、クリスに経緯を尋ねてみた。


 俺からのメールを読んで理解した瞬間、門番とのやり取りの続きを思い出したらしい。


 なにかとんでもないことをされて口を割ったかわいそうなヤツの供述だな。


 魔族が地球側に爆弾を仕掛けることにしたが、いくら魔力の高い魔族でも世界を越えての干渉能力は異世界と繋がっているスポット周辺だけらしい。


 なるほど。クリスがやってきた辺りがスポットだとすると、そこから半径十キロ、みたいな感じか?


 なので爆弾があるとするとその影響下にある場所と言える。

 その計画を知った人間側はクリスを送り込んで阻止しよう、としているわけだな。


「爆弾って、いつ爆発するんだ?」

「威力を高いものを設置したようなので、起動に時間がかかるとか。おそらく、設置から五日ほどです」


 時間があるようで、全然なさそうな気がするが。


「設置はいつだったんだよ」

「わたしが来た日です」


 三日前。つまり爆発は明後日!


「時間ないなっ」

「この魔力の源が設置された爆弾なら解決なのですが」


 口ぶりや表情からして、違うと思ってるな。


 人気ひとけがなくなってから大学の裏門近くの林に向かう。

 まだ夕陽が差している時間だけど木が多いってだけで暗いよな。むんむんするし、早く帰りたい。


「ありました」


 クリスが杖を指すところを見ると、地中に半分くらい埋まっているオレンジ色の球体がある。直径一メートルぐらいか?

 爆弾っていうからこっちの爆弾みたいなのを想像してたけど、エネルギーそのものって感じだ。


「しかし、これはレプリカですね」


 先にこれを見つけて処理して問題解決と思わせるためのものだとクリスが言う。


「それでも放置はできません。解除します」


 クリスが杖を両手で掲げ持って目を閉じて、強く念じるようなしぐさをする。

 地中に半分埋まったエネルギー体は、だんだん小さくなって消えていった。


「ふぅ。これで大丈夫です。ちょっと、疲れましたね」


 いつも元気の塊のクリスが、本当に疲労困憊な顔をしている。

 レプリカを消滅させるだけでこうなってるってことは、本物を消滅させるの、大丈夫だろうか。

 けれどそこはクリスを信じるしかないな。


 明後日までに、爆弾は見つかるだろうか。見つけないといけないんだけど。

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