7月11日 真相はゲームの中に?
17.浜辺
昨日、大学から帰ってからもクリスは魔力を探知し続けている。
レプリカを消すのにわりと力を使ったっぽいけど大丈夫か? さすがに心配になる。
「休み休みやってるので大丈夫です。こればかりはわたしにしかできないお仕事ですから」
ちょっと疲れた顔で強がられると、なんかいたたまれなくなる。
けど。
「明くーん! 魔力見つけましたー!」
深夜に部屋にやってきて寝てる俺の上に飛び込んでくるのやめてくれっ! さすがに夜中ということで声は小声だったけどその気遣いを起こし方にも分けてくれ。
「で? 見つけたって? どこだ?」
部屋の電気をつけて、ベッドの上に座って眠い目をこする。
「今回見つけた魔力は、魔王軍ではなくてわたし達人類側のものなんですけど」
前置きをしてクリスは魔力を感じた辺りの情景を話す。
「暗いですね。波の音が聞こえます。……あ、海です。わりと整備されている砂浜があって……。魔力はもうちょっと陸の方。今はあまり明かりがないのではっきりとした位置は判りませんが。建物の中です」
建物? 人間側の魔力ということはクリスの助けになるようなもの、だよな。
なんか封印でもされてるのか?
ネットの地図で確認したら、電車で一時間近くの海岸辺りみたいだ。
「明日、連れて行ってくださいませんか?」
「おまえもう電車乗れるだろ?」
「今回は明くんが一緒でないといけない気がするのです」
どういうシチュだよそれ。
まぁいい。俺がいなくてもいいような感じだったら後で文句言ってやるだけだ。
ってことで朝から二人で電車にのって、やってきましたよ。
家出る時に母が変なテンションでクリスに水着貸してた、というかほぼ押し付けてた。けど今日は遊びじゃないんだよなー。
平日なのにわりと人多いな。子供達の夏休みはまだもうちょっと先だけど大学はもう休みとか、講義の時間の合間とかで来れる人が多いんだろうな。
こうやって人が遊んでるのを見ると暑いのに遊びたくなるから不思議だ。海に入れば気持ちいいしなー。
と、ちょっとした誘惑は振り払って、早速、魔力ってのを特定してもらおうか。
クリスが確かめるように時々目を閉じて、海沿いの道を歩く。
たどり着いたのが、今はもう存在がレアな、個人経営のゲームショップだ。
ってことは?
期待して中に入ると、……あった! 「ダークネス・フローム・フォレスト2」だ!
……なるほど、俺がいないといけないのは、買うためか。
五百円でお買い上げー。中古の中でも安い。クソゲー認定されててよかった。
さて、用事が済んだから帰るか。手に入れたからには早速プレイしてみないとな。ゲーム内に爆弾のヒントがあるかもしれないし。
帰り道、クリスが少し名残惜しそうな顔で浜辺をちらりとみた。
「海、いいですね。皆さん楽しそうです」
「爆弾問題が片付いたら遊びにきたらいい」
「その時は連れてきてくれますか?」
ひとりで行けよ、と言いたいところだけど。
「迷子になったら困るからな」
本当に爆弾があってそれを無事に取り除けたら、それくらい付き合ってやってもいいか。
昼過ぎに家に帰ったら母に呆れられた。
「もう、せっかくのお出かけなのにどうして一日遊んでくるとかしないわけ? クリスちゃんかわいそうじゃない」
「クソあっちーんだよ。母も外に数時間いてから言ってくれ」
「あんたそんなにヘタレだっけ?」
「だからそういう問題じゃないっての」
これ以上話すのも時間の無駄だ。クリスと部屋に引き揚げた。
改めて買ってきたゲームをかばんから出す。
「これ、わたしなんですねぇ。」
パッケージに描かれた主人公クラスの女性のイラストを見てクリスが目を輝かせている。自分がイラストになってるのが売られてるってどんな気分だろう。
あ、この魔王らしき影の前にいるのが、クリスがあんなことやそんなことをして情報を得た門番か? 飴色の剣持ってるし。結構地位高いのか。
とにかくやってみるか。
……うん、これRPGだもんな。クリアするのに時間かかるよな。
最適解の攻略ルートが判ればいいけど、ネットにすら情報ないし。
帰ってから飯と風呂以外の時間をゲーム攻略に使ってるけど、さすがに疲れたっ!
「お疲れ様、明くん。疲労回復の魔法かけますね」
クリスの魔法はいい感じに効いてくれるけど、なんだろう、この働かされ感は。
ゲームって楽しんでやるべきだと思うよ。
夜中までかかって、やっと門番のところまでやってきた。
「いくら疲労回復の魔法があるからって、これってなんだか死ぬまで働かされる奴隷みたいだ」
つぶやいたら。
「実際そんな刑もありますねぇ」
うわぁ。聞くんじゃなかったっ。
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