30.握手

 クリスが神官の手を取って、オレンジ色の球体の中へと入っていく。


「明様、約束を守っていただき感謝いたしております」


 神官が言う。

 あれからさらに、地球からの力が増したらしいのだ。


 きっと俺とクリスが作って公開した動画が功を奏して「ダークネス・フローム・フォレスト2」や、元の作品である1をプレイする人がいたのだろう。


「この調子ならばクリス様が戻られればすぐにでも魔王を退治できるでしょう」


 それはよかった。少なくとも魔王にやられてしまう可能性は少なくなったわけだ。

 苦労した甲斐があるってものだよ。


 ……そういえば2にも隠しダンジョンみたいなのがあったよな。ストーリークリアで満足して手つけずだったけれど。


 クリス達がいつ魔王を倒すのかは判らないけれど、俺も隠し要素プレイしてクリス達を助けることにするか。


「少しの間でしたが、ともに過ごせたことを嬉しく思います」


 クリスが別れの挨拶を口にする。ゲームと同じセリフだ。

 このシーン、特別イラストだっけな。寂しそうな顔でそれでも笑顔を浮かべてたっけ。


 目の前のクリスは、笑みがない。ここを離れることを本当に寂しいと思ってるのか?


「明くん、握手、しましょう」


 お別れの握手か。


 うなずいて、手を取り、握った。

 思っていたよりもしっかりとした手だ。筋肉の弾力を感じる。

 そりゃそうだよな。戦う人だし。


 考えてみたら、俺はクリスに触れたことがほとんどない。あるのかもしれないが記憶にない。

 彼女の感触、しっかりと、覚えておこう。


「それでは、さようなら。……ありがとう」


 クリスが笑顔を見せてくれた。でも目からは涙がぽろりと落ちて……。


 彼女達の姿が、オレンジ色の球体の中に隠れていく。薄らいでいく。


 行ってしまうんだ。

 はっきりと、寂しいと思った。


 やがて初めから何もなかったかのように、部屋の中には握手の手の掲げている俺だけがぽつんと残された。

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