7月17日 別れ
29.名残
三日間、あっという間だった。
もうすぐクリスを迎えにあの神官が来るだろう。
みんなで夕食を食べる時も、今まで通りの態度を崩さない彼女が何を考えているのか判らない。
……また「もうちょっとだけ」は、ないだろうな?
いや、さすがにないか。
普段ちょっとポンコツでも仕事はきちんとするもんな。魔王退治を放り出すなんて真似はしないだろう。
「明くんどうしたの? わたしの顔ずっと見ちゃって」
「あ、いや、なんでもない」
「あらぁ明くん、クリスちゃんに見とれちゃったの?」
「違うし」
あはは、と食卓に笑いが広がる。
これも今夜が最後。
たった十日間なのにすっかりなじんだクリスの存在が、両親の中から綺麗に忘れ去られるんだ。
なんとも複雑だ。
今までなら、やっと帰るのか、って思ってたのに。
食事を終えて部屋に戻る。
当然のようにクリスもついてきた。
「明くん、今までありがとうございました」
クリスが神妙な顔で頭を下げる。
「爆弾の除去を手伝ってくれただけでなく、三日間、たくさんのところに連れていってくださって、たくさんの思い出ができました」
「……うん、まぁ、暇だったし」
いつものように返した。
またまたぁ、って笑うクリスを想像してたのに。もう一度「ありがとうございます」と真剣に返されて、今度はどう返していいのか判らない。
「ミナリィエに帰ったら、魔王退治頑張りますね。明くんがゲームをクリアしてくださったし、きっと大丈夫です」
そうか、実際に戦うんだから、負けるという確率も当然あって……。
「クリス……」
思わず名前を呼んだけど、後が続かない。
部屋にオレンジ色の光がぼんやりと現れた。
どんどん大きくなって、中に人の形が浮かび上がる。
三日前と同じ神官が、姿を現した。
「クリスティーナ様、お迎えにあがりました」
まったく同じ声、抑揚で告げる。
「ありがとう。参りましょうか」
クリスがゲームと同じセリフで応えた。
行ってしまうんだな。
こんな瞬間に自覚した。
名残惜しいのは、俺の方なんだ、きっと。
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