28.方眼

 クリスはいろんなところに行きたがった。

 遊園地、カラオケ、食べ放題……。こいつの欲求に終わりはないんじゃないかと思えるほどだ。


 けど考えてみたら、三日間だもんな。目に付いた「異文化」に触れたいのは当然か。


 カラオケ行って何歌うんだよと思ってたら、アカペラでミナリィエの歌を歌った。多分、うまいんだろうな。とにかく歌声は綺麗だった。


「やっぱり大きな声で歌うのって気持ちいいですよね」


 それはどこの世界でも同じらしいな。


 遊びだけでなくて、歴史や地理にも興味をしめした。

 近所の文化センターで、このあたり一帯の昔の風景の写真やジオラマに見入っている。


「昔は、規則正しく家が並んでたんですね」

「あぁ、今でも例えば京都市とかはきっちりと方眼みたいに通りと建物が整備されてるけど、この辺りは戦争で焼けてしまってからきちんと復興するまでに家をばらばらに建てたみたいで、今の形になったんだな」

「なるほど……。昔の風景とされるこちらの模型、わたしが活動している王都近辺に、なんだか似ている気がします。建物などの素材は全然違うのですが……。なんだかちょっと懐かしい気分です」


 もしかすると、この辺りとミナリィエと繋がったのはそのためなのかもしれないな。


「王都ってどんなところ?」

「街並みはキョウトシでしたか? そちらと同じように整備されています。情報や文化なんかも都市部に集中している感じです」


 そういうところはどこの世界もおんなじだな、やっぱ。


「田舎は地球こちらの田舎とされる地域とそう変わらないと思います。技術や文明の発展具合は違いますが」


 ゲーム内でフィールドが表示されても森や山のエフェクトの上をキャラが動くだけだから、実際どんな感じかは全然想像できない。

 実際に見たいって気持ちもちょっとあるな。けどこんなことを言ったら「それじゃ一緒に行きましょう」とか言い出しかねないから黙っておく。


「魔法ってわりと広く使われてるんだっけ?」

「はい。使えない人もいますが特に差別されているわけでもなくて、使えるのは便利、ぐらいの位置づけですね。ですが、機能を維持するのに魔法は欠かせないので、どうしても魔法に関するエリートは都市に集中します」


 明かりや、水の循環、ちょっとした器械を動かしたりとか、魔法は都市の生活を支えるのにもうなくてはならないものになっているんだとか。


「つまり王都近辺に住めるのはるエリートなんですよ」


 神官戦士である彼女もそうなのだだと胸を張る。

 食いしん坊で遊び好き、おまけにちょっとポンコツな彼女がエリートか。


「あ、笑いましたねっ」


 クリスが、ぷぅっと頬を膨らませる。いちいち感情表現が豊かだよなおまえ。




 そんなこんなで三日間、俺はクリスと一緒に過ごした。

 異文化に触れるって、自分の住むところのあれこれを知るいいきっかけになるんだなって実感した。

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