7月12日 爆発寸前!

18.占い

 夜が明けた。

 オールでゲームなんて、前にやったのいつだろう。


 頭がぐらぐらして目の奥がずんずんする。ちょっと仮眠を取らないとまずいか?


「ちょっと明、何その顔。寝てないの? まさかずっとゲーム? 最近ちょっと自制できてるって思ってたら――」


 母にお小言をくらいながら、とりあえず食事はとった。


「明くん、お疲れ様です。どうですか?」

「悪い。まだクリスが地球に来て二日目だ」


 なんであんなに無駄な選択肢があるんだよと毒づく俺に、クリスは苦笑いしている。


「爆発は今日ですね。時間に余裕はないので別の方法を試します。明くんは休んでいていいですよ」


 気遣ってくれてるのか?


「あぁ、ありがとう。けど、別の方法って?」

「今までより少しだけ強力な魔法を使います」


 クリスは自室として使っている客間に引っ込んでいった。

 なんとなく気になって、ついていく。


 クリスが杖の先で床をなぞり始めた。インクとか使ってるわけでもないのに、彼女が杖でなぞった部分が光ってる。これ、魔法陣ってやつか?


 ファンタジックな円形の模様が出来上がった。クリスがその真ん中に座ると目を閉じる。

 異世界の言葉で呪文みたいなのを唱え始める。

 そして最後にかっと目を見開いた。


 彼女の手にある杖の先から白い光が飛び出して、球体になる。


“我が探し求める物の周りを映し出せ”


 クリスの強い声に応えるように、球体の中にぼんやりと景色が浮かんできた。

 広い空間、太い柱に広告の電光表示。スーツを着た人や、カジュアルな恰好の若い人が行き来している。


 ここは……、駅のコンコースだな。どこの駅だ?


 床にオレンジ色の球体が出現している。少しずつ大きくなってきている。

 大学の裏にあったレプリカとそっくりだ。レプリカは一メートルぐらいだったけど、映されているそれはもっと大きくて、今も少しずつ肥大している。


 そばを歩く人達にも見えているみたいだけど、慌てたり逃げ出したりする様子はない。横目に見ながら通り過ぎていく。スマホで撮影している人もいるけど、その人も慌てた様子はない。

 明らかにヤバいだろう。これが正常性バイアスってやつか?


「これですね。早く行かないと。けれど、どこでしょう。明くん判りますか?」


 クリスも焦った声で言う。


「この映像って動かせたりするか?」

「少しなら。どうします?」

「どこの駅なのか知りたい。電車が通っている近くか、外に駅名が書いてるはずだ」


 それならば、とクリスは映像を遠くから映し出すアングルに切り替えた。


「あっ」


 俺とクリスは同時に声をあげる。

 大学に行くときに乗り換えるターミナル駅だ。


「すぐに行きましょう」


 クリスの切羽詰まった声に俺もうなずいて鞄をひっつかむ。

 ……けれど、俺が行ってできることって何かあるのかな。


 あと、どうでもいいが、クリスは失せ物探しの占い師なんかやったらこっちでもお金を稼げそうじゃないか、なんてことを超寝不足の頭が勝手に考えていた。

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