19.爆発

 爆弾が仕掛けられたターミナル駅に急ぐ。

 でも急ぐっていっても電車での移動は時間が決まってるわけで、すごくもどかしい。


 いつも騒がしいクリスも押し黙って、いよいよマズい状況だという雰囲気がひしひしと伝わってくる。


「着くまでに爆発なんてことは?」


 小声で聞くと。


「おそらく大丈夫です」


 でも時間の余裕はそんなにない、という表情だ。


 電車が目的の駅に到着して、俺とクリスはコンコースに走る。

 爆弾は探すまでもなくそこにあった。もうかなり大きくなっている。一メートル半ほどぐらいになったオレンジ色の球体は、パチパチと怪しい音をたてながら小刻みに震えている。


 周りの人達は「なんだこれ?」「CG?」「なんかの撮影?」などと言いながらも危機感のなさそうな顔だ。中には焦って通報している人もいるけれど、そっちが正常な反応だと思う。


 警察が来る前に、とクリスを見やると、もう目を閉じて手を組み合わせ、祈りを捧げ始めている。


 大丈夫か? 間に合うか?

 そう思った時、爆弾からオレンジ色の稲妻のような光がクリスに飛んできた。


 咄嗟にクリスを抱きかかえて伏せる。

 稲妻は柱の電光表示にあたって弾けた。広告表示もショックで消えてしまう。


 悲鳴があがる。ようやく逃げ出す人が増えた。


「大丈夫か?」

「明くんこそ」

「俺はいい。続けてくれ」


 本当はおなかとか結構痛いけどやせ我慢してクリスを立たせた。


「できるだけ人目につかないようにと思ってましたが」


 クリスは剣を抜いて構えた。


 ……どっから出した? そういえば前の時もどこからともなく杖を出してたな。異次元収納?

 あぁ、いや、今はそんなことはいい。


“邪悪なる力を討ち祓いし光の加護を我が剣に宿し――”


 異世界語で朗々と呪文のような言葉を歌い上げるクリスは、結構格好いいと思う。


 まだ逃げずにいた人達や、新たにやってきた人達は、何事かとクリスに注目している。


 クリスの全身が白く光り出す。

 また稲妻が飛んできた。

 はっと気づいた時にはもうクリスにぶち当たってたけど、今度は大丈夫そうで彼女は揺るがない。


“我が力、今ここに解き放つ。浄化!”


 クリスのひときわ大きな声。

 彼女が剣を振るうと、体を包んでいた光が剣に集中し、切っ先から撃ちだされる。


 白がオレンジを包み込んで、しばらくもみ合うように絡み合っていたけど、数秒後に音もなく散っていった。


「成功です」


 クリスが笑って、脱力する。

 彼女を支えて、俺はさっさとその場を離れることにした。




 爆発は阻止できた。

 けれどこれ、きっとネットとかで騒がれるパターンだ。

 そっちの鎮火は、どうしよう。


 とにかく今は一刻も早く家に帰ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る