世界の危機は忘却の彼方

御剣ひかる

7月7日 邂逅

01.傘

 大学帰り、突然雨が降って来た。しかも結構強い。もうすぐ家だけど俺は鞄から折り畳みの傘を出して差した。

 小さ目の傘には荷が重いといわんばかりの雨音が頭上で跳ねる。


 天気予報じゃ降水確率は十パーセントだからいらないだろうと思っていたけど、梅雨時だからと持たされた傘が役に立つとは。きっと帰ったら母はドヤ顔で「ほぅら、言った通りだったでしょう~?」と言うに違いない。「あきらくんはもっと母の言うことを素直に聞いたほうがいいね~」とかも言いそう。


 実際助かったから少々威張られたぐらいならほめたたえよう。俺って優しい。

 そんなふうに考えながら早足で家に向かっていた。


 十字路を曲がって家まであと少しというところで、明らかにありえないものを見た。

 唐突に目の前に現れたのは、五十センチくらいの球体のようなものだ。オレンジ色に光ってる。


 うわっと声をあげて足を止める。


 なんだこれ? 物質感がない。光だけがぽかんと浮いてる感じ。雨もすり抜けてるし。

 と思ってたら、だんだん大きくなってくる。


 なんかヤバくね?


 光が大きくなった分、後ずさったけど、中になにか形が見えて俺はまた光に近づいた。

 今はもう二メートル近い光の中に、人の形っぽいのが見える。


 そう思った瞬間、光が音もなく爆ぜた。


 思わず傘を取り落としそうになった。

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