02.透明

 オレンジ色の光が四散する。空から地面に落ちる夕立の雨粒と違う光の流れは、綺麗だと思った。


 けれどこんな超常的ななにか、絶対まずい。

 こう考えるのは防衛本能ってヤツかな?


 でも光が消えた後に現れた「それ」に好奇心も刺激される。

 人の形をした透明なものが、俺の目の前に立っている、ように見える。なにせ透明だからこれが本当に人なのかも確かじゃない。


 透明っていっても完全に透けてるわけじゃなくて――それだったら俺には見えないよな――よくゲームで透明人間を表現している感じみたいな、ちょっともやもやっと輪郭が見えてる。

 でも雨は当たってないみたいですり抜けてる。すごく不思議な感じだ。


 これが人だとすると、多分女性だ。髪だと思われるものが長いし、体の輪郭も男より丸みがある感じに思える。


“あ、あの、すみません”


 透明人間がしゃべった。少し高めの凛とした声だけど姿が透明なら声も透明な感じで、目の前にいるのにどこか遠くから聞こえてくるような気がする。


 これ、やっぱ俺に話しかけてるよな。

 そう思うと途端に逃げた方がいいと直感が働いた。

 目をそらして、すっと隣を通り抜ける。


“あれ? わたしのこと、見えてない……?”


 独り言のようにつぶやかれた声はさっきより可愛らしい感じがした。

 こっちの声が「」なのかな。


 思わずちらりと後ろを見てしまった。

 相変わらず透明な人が、小首をかしげて俺を見ていた。


“あ、あの”


 透明な人が戸惑いがちに俺に手を伸ばしてきた。

 触れられちゃいけない気がする。すごくする。

 俺はまた知らんぷりをして家に向かおうとした。


“え? えぇっ? 透明? なんでどうしてわたしとうめいなのっ!?”


 後ろでパニクってる絶叫が聞こえたけど、そんなの俺シラネ。

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