03.文鳥

 後ろでパニクってる女性らしい透明人間は放っておいて、俺は家へと歩いた。


“ちょ、ま? なんでっ?”


 まだパニクってるな。まぁ無理もないか。誰だって急に自分が透明になってるなんて見てとったら驚くだろう。

 けれど俺には関係ない。関わっちゃいけない。


“とりあえずあの人についていくのがいいのかな”


 物騒なつぶやきが聞こえて、思わず振り返る。

 透明な人が立ち止まって小首をかしげたように見えた。

 無視して歩く。ちょっと行って振り返る。

 ちょこちょことついてきている透明女性はまた止まって小首をかしげる。


 昔飼ってた文鳥を思い出した。


「鳥かよ」


 つい、口走ってしまった。


“やっぱり、わたしが見えてるんですねっ”


 めちゃ嬉しそうな雰囲気だ。


 やっちまった……。

 昔から「巻き込まれ体質」って言われるくらい、あれこれとトラブルにあってきたけど、一部はこんな感じで自分から関わるような言動をしてしまってるんだよなぁ。

 ついに透明人間なんてありえないものに話しかけられることになるとは。


 いや、まだだ、まだ関わると決まったわけではない。

 最後のあがきと言えなくもないけど、俺はまた家に向かって早足で歩いた。


“待ってください! あなたにも関わる大切なことなのです”


 さっきまでのあわあわした声じゃなく、最初の一声のような凛とした響きだ。


 真剣さが伝わってきて、立ち止まってしまった。家の目の前まで来てたからそのまま門を開けて入ればよかったのに。


 急いでついてきてた透明さんが“あ”というと、背中に何かが触ったような感覚がした。


 後ろの気配が急に質感を持った気がして、思わず振り返った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る