04.触れる
俺の目の前に立っているのは、俺とそう年の変わらなさそうな茶髪の女の人。けどその恰好が、ファンタジーだった。
額には銀の細いサークレット、白のローブに銀色の留め具のついた青のマント、腰に剣っぽいもの、靴は黒のニーハイブーツだけどあまり見ないデザインだ。
彼女がじっと俺を見つめる。深い緑の瞳に引き付けられる。思わず見惚れて傘を落としそうになった。
雨が、彼女を濡らす。
「あ……、わたし……。透明じゃなくなってる」
驚き声が細く漏れる。
どきりとした。美人と可愛いを足して二で割ったようなその人に、俺は――。
わずかの間呆然としていた彼女は、はっと思い出したように姿勢を正す。
「はじめまして。わたしはクリスティーナ・ディルエ。この世界に迫る危機を伝え、ともに取り除くためにミナリィエからやってまいりました」
頭大丈夫か?
多分いつもの俺だったら速攻そう言ってただろう。
けれど、光る珠から出てきた透明人間が、俺に触れて実体を持ったのをずっと間近で見ていたんだ。彼女が異世界からやってきたといっても変に思わなかった。
けど。
「なんで、俺?」
思わず疑問が口から出た。
「転移の儀式で、一番最適な人のところに現れるようになっているのです」
つまり俺が世界の危機を止めるのに最適ってこと? それこそ、なんで?
それよりももっと大事なのは。
「その世界の危機って、なんだ? 俺でも止められるようなものなのか?」
「はい、それは――」
「それは?」
「……それは……」
凛々しい顔が、くしゃりと歪む。
「忘れました」
テヘペロとでも言い出しかねない顔になりやがった。開き直るなっ。
「はいぃ!?」
「おそらく転移の際に少しズレが生じたか何かのせいでしょう」
この世界に出現した時に透明になっていたのもそのズレの現れかもしれない、とクリスティーナと名乗った女性は言う。
「仕方がないのであなたの家でお世話になりながら思い出します」
「いやいやいや、うちは駄目だろう。両親にどう説明するんだよ」
「その点は大丈夫です。さぁ、参りましょう、
「どうして俺の名前知ってんだよっ?」
「ターゲット、あ、いえ、協力者のことはある程度調べてあるので」
ターゲットってなんだよっ?
唖然とする俺を置いてクリスティーナは家の門のチャイムを鳴らした。
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