25.報酬

 部屋の中にオレンジ色の球体が浮かび上がった。

 まさかまた爆弾?

 いや、これはどっちかというと、クリスが来た時と同じだ。

 ということは……。


 固唾をのんで見守る中、球体の中に人の形が浮かび上がる。

 やっぱり迎えが来たんだな、と思うと同時に、あのクリスの印象的な登場を思い出す。


 まさかコイツも透明で、触れたら実体化して、しかもここに来た大目的を忘れてるなんてことは……。

 ひそかな心配を吹き飛ばすように、中の人はきちんと色と実体をもって現れた。

 オレンジ色の球体は残ったままだ。二人を連れて帰るため、だろうな。


「クリスティーナ様、お迎えにあがりました」


 おぉ、ゲームと一緒の人、一緒の台詞だ。

 変な感動をしている俺を横目でちらりと見ると、迎えの神官がクリスに恭しく礼をする。


「あ……、わたし……」


 クリスが戸惑った声でつぶやいて、俺を見た。


 いやそこは「ありがとう。参りましょうか」だろう?

 神官は小首をかしげてクリスを見た後、俺に視線を移してくる。

 えぇっと、そこでこっちを見られても困るんだけど。


「あなたが地球の協力者、明様ですね。ご挨拶が後になって申し訳ございません。この度は甚大なるお力添えをいただき、ありがとうございました」


 このセリフもゲーム通りだ。ただしクリスが迎えの人の手を取った後だったけど。


「いや、まぁ、大したことはしてないよ」


 実際、爆弾を処理したのはクリスだし。


「いいえ、明様が『ダークネス・フローム・フォレスト2』をプレイしてくださったので、こちらの世界とのつながりが深くなり、地球からのエネルギーがたくさん流れ込んでくるようになりました」


 そのおかげで人の魔力が活性化して、逆に魔族の魔力が減退したんだそうだ。なのでミナリィエでの戦いがとても楽になったのだとか。


「ひとつ、聞いてもいいかな」

「なんでしょう」

「どうして、協力者は俺だったんだ?」


 神官はうなずいて説明する。

 元々、この町がミナリィエとつながるスポットだったのでこの近辺から協力者を選ぶことになっていた。適任者を探す段階で、俺だけが、初代「ダークネス・フローム・フォレスト」を熱心にクリアしていたそうなのだ。


 おおむね予想通りの回答だった。


「そうか。ゲームをクリアして世界の危機を救うなんてなんかちょっと変な感じだけど、役に立ててよかったよ」


 神官は俺にも深く礼をしてから、クリスに向き直る。


「ではクリスティーナ様、参りましょう」


 クリスは少し考える様子で軽くうつむいて、何かを決心したように顔を上げた。


「わたし……、もう少しここにいたい」


 えっ?


「もう少しだけ、明くんと一緒にいたい。次に迎えに来た時には必ず戻ります。だからっ」


 予想外の言葉だったんだろう、神官はめちゃくちゃ戸惑ってる。


「世界の危機を救った報酬だということで、ね?」


 神官はクリスを見たあと、俺を見る。


 いやだから、そこで俺を見ても、なんとも言えないじゃないか。


「判りました」


 えっ?


「三日後、お迎えにあがります」


 いいのかそれで? 魔王との戦いがあるんじゃないのか?


「ただし、明様にもご協力いただきます」

「俺が? 何を?」

「引き続き『ダークネス・フローム・フォレスト2』をプレイしていただきたい。もし可能であれば他の方にも促していただければありがたいです」


 ゲームを遊ぶ人が増えればそれだけミナリィエにこちらから力が流れ込むんだそうだ。

 なるほど。人間側がイージーモードになるってことだな。


「判った。協力する」


 俺は別に今クリスがミナリィエに帰っても全然いいんだけど。

 三日間だけなら我儘に付き合ってやってもいい、くらいにはクリスと過ごした日は楽しかったと思う。


「それではまた三日後に」


 神官が球体の中に戻っていって、現れた時と同じように静かに消えていった。


「明くーん、ありがとう!」


 クリスが抱き着いてくる。


「ひっつくなうっとうしい」

「とかいってー、わたしに残ってほしかったんでしょう?」

「今すぐあの神官呼び戻せ」

「無理でーす」


 ドヤ顔キメやがった。

 クリスの報酬わがままを受け入れたことを早速ちょっとだけ後悔した。


 まぁ、これもあと三日だ。

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