26.すやすや
迎えの神官が帰って、思わず深いため息が漏れた。
「我儘言ってごめんなさい。でも、明くんともう少しだけでも一緒にいたかったんです」
せっかく異世界に来たのだから楽しい思い出を作りたいのだとクリスは言う。
確かに、研修旅行とかに行って研修だけして帰ってくるのはつまらないなと自分に当てはめてみた。
「まぁいいよ。三連休だし、行ける範囲で行きたいところに連れてってやる」
「ありがとうございます! だから明くん大好きです!」
クリスがまた抱き着いてきたからひっぺがす。
「丁度いい退屈しのぎだ」
「本当に素直じゃないですねぇ」
「おまえのその自信は一体どこから湧くんだ」
「ここです♪」
顔を指さしやがった!
「あ、それともここかな?」
胸っ。まぁ確かにおおき……、いやいや、そういう問題じゃなくて。
「その代わりおまえにも大きな仕事をしてもらうからな」
真剣な顔で告げると、クリスもはしゃいだ笑顔を引っ込めた。
「何でしょう?」
「爆弾処理の映像をうまく『俺じゃない誰か』が公開したことにしてほしい」
誰かも判らないヤツが撮った映像を加工して、新しく作ったアカウントで公開する。万が一の身バレにつながらないように映像はあちこちからとってきて自然な感じで繋げて加工しないとな。
「いんたーねっとを見る人達に、架空の誰かさんが作って公開したと信じさせればいいのですね?」
「そう。事後処理にもなるし、『ダークネス・フローム・フォレスト2』への導線にもなるだろう」
単純に爆弾処理のドッキリだったというよりはいっそ「ダークネス・フローム・フォレスト2」の再現だとするとゲームに興味を持つ人が出てくるだろう。
ゲームをする人が増えるとミナリィエの人達に有利らしいからな。一石二鳥だ。
「ってことで俺は映像の加工とかするからおまえは自分の部屋に戻れ」
「……今日、ここで寝てもいいですか?」
はあぁっ!?
「明くん、映像の加工とかするのでしょう? 見ていたいですし、起きている間は魔法でお手伝いできますよ」
……手伝いはありがたい。
正直、一人で加工、編集となると徹夜しても作れるかどうか、だ。早い方がいいだろうから頑張ろうとは思ってたけどやっぱつらいもんなぁ。
「よし、ガンガン手伝うのを条件に、許す」
「ありがとうございます」
めちゃ嬉しそうだな。これも異世界体験と言えなくもないのか。ミナリィエにはインターネットないだろうし。
ということで早速映像の加工を始めた。
徹夜覚悟だったけど、三時間で終わった。
クリスの魔法のおかげで映像の見栄えが良くなった。
彼女が言うには、そう見えるように信じる魔法をかけているから実際には加工しているわけではないそうだ。
この際仕組みは何でもいい。
映像とコメントを、投稿サイトにアップする。しばらく動向を見ていると、ぽつぽつと再生回数が上がり始めて、コメントも付き始めた。
変に炎上してないことを確認してPCをシャットダウンする。
ベッドを見ると、クリスがすやすやと気持ちよさげに眠っていた。
おいおい、ベッド占領かよ。
でもたとえ端っこに寄ってたとしても一緒に寝るわけにはいかないよな。
悩みのなさそうな顔しやがってと思いつつ、なんだか笑いが込み上げてきた。
座布団とクッションで簡易布団を作って、床に寝っ転がった。
……眠気は、来そうにない。
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