12.門番

 クリスが重大なことを思い出そうとしている。

 俺は固唾をのんで見守った。

 ここで「だめです~☆」とやられたら反射的に頭をはたく自信がある。


「わたし達人類と魔族は長く、長く戦っているのです」


 目を閉じ思案顔でクリスが言う。


 何かすごくさかのぼられた気がするが、ここで口をはさむのはよくないな。きっとそこから思い出せば「世界の危機」に連なっていくんだろう。クリスもそう思ってのことと信じたい。


「あれは、十年近く前でしょうか、突然異世界とつながるスポットができたのです。つながっただけで特に何も起こらないのでずっと様子を見ていたのですが、やはり何もなくて」


 そのスポットでつながってるのが地球なんだろうな。しかも日本の、俺んちの付近?


「魔族もそれに気づき、異世界に干渉しようと動き始めたのです。なぜつながっているだけで何も起こらない異世界、ここ地球に干渉しようとするのかは、あの門番を倒すまで判りませんでした」


 お、飴色の刀身の武器を持つ門番につながってきたぞ。


「やつを倒し、わたしはなぜ魔族が地球に干渉しようとしているのか、問い詰めました。するとこんな答えが返ってきたのです」


 クリスが目を開けた。真剣な目で、声で、思い出したことを口にする。


「おまえ達は特になにも起こっていないと思っているが、あちらの世界から人間達に有利な力が流れ込んで来ているのだ、と」


 その力は強弱を繰り返しながらゆっくりと薄れていっているが、時々強くなることがあるそうだ。

 なので魔族は地球から流れ込む力を抑えるべく動いていたが、いっそ地球に壊滅的な打撃を与えればいいのではないかと考えた。


「そこで魔族が考えたのが……」


 考えたのが?


「……駄目です。今はここまでしか思い出せません」


 なんだよぉ。思わずがくりと力が抜ける。


「しかし思いついたこともあります」

「なんだよ?」

「こちらの世界のゲーム『ダークネス・フローム・フォレスト』がカギになっているのではないかと。なので明くんにはその『くそげー』だったと言われている2を探し出してほしいのです」


 なるほど、一理ある。


 1が出たのは10年前だ。二つの世界の時間軸がどうなってるのかは知らないが、同じだと仮定したら、こっちから力が流れ込み始めたっていう時期は重なってる。


 もしもゲームが関係しているとするなら、俺も一つ仮説が浮かんだ。

 強弱を繰り返しながら弱まってるってのは、ゲームに対する人気とか注目度とか、あるいは熱中している人の数とか、そういうのに関わっているんじゃないか、ってこと。


 前も思ったけど、いくらクソゲーだからって全くやらない人がいないわけじゃないんだ。どれだけクソなのかを検証するヤツはいる。そしてその検証につられてプレイするヤツもいる。

 そうやって細々とつながってるんだ。


 となると、魔族がこちらに干渉しているのはゲームに関する情報をシャットアウト、なんじゃないかってこともありうる。


「判った。探してみる。……しかしその門番、やられて内情をペラペラしゃべるなんて情けないな。そのおかげで助かるかもしれないからありがたいんだけど」

「え? それはもう、ねぇ。あんなことされちゃったら言うしかないですよ」


 クリスが少し顔をそらせて怖い目をした。


 一体何やった!?

 聞かない方が身のためかもしれない。俺はあえてスルーした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る