13.流しそうめん

 とりあえず世界の危機に一歩近づいた。肝心の内容はまだ判らないけど、俺も「ダークネス・フローム・フォレスト2」を探して手に入れることで協力できそうだ。


 ……でもちょっと待てよ? 世界の危機が何かがわかったとして、その先って俺はどうすりゃいいんだ? 戦闘どころか殴り合いの経験すらない現代人だぞ? もちろん異能なんてないし。

 そのあたりはクリスの担当だよな? まさか一緒に戦ってとか言わないよな?


 ちょっと急に怖くなった。


 門番を倒した後になにやらよからぬ方法で情報を手に入れるぐらいだ。彼女に任せて大丈夫だろう、うん。

 無理やり納得して、喉が渇いたから台所に行った。


 両親が居間でテレビを見ながらのんびりしている。

 夜のニュースの時間で、流しそうめんの店を特集している。

 半分に割った竹のといに水を流して、そうめんを入れると、といのそばに集まった子供達が歓声をあげて箸を突っ込んでいる。

 なかなかうまく取れない子がちょっと悲しそうな顔をしてたりして、可愛らしい。


 涼しそうだよなー。画像だけは。

 けど実際やったら多分太陽の暑さの方が勝ってるよなきっと。


 なんて思ってたら、後からやってきたクリスがじぃっとテレビ画面に見入っている。

 なんだ? 流しそうめんに興味があるとか? やってみたいとか言い出さないだろうな?


「どうした?」

「ちょっと思い出したことがあって」


 お? また何か思い出したのか? でもここじゃ親がいるから詳しく聞けない。


「あらクリスちゃん、流しそうめんやったことあるの?」

「あ、はい。似たようなことは」


 似たような?


「あぁ、竹のといじゃなくて家庭用の器械のかしら? あれってどうなのかしらねぇ。こういうところに行って体験するのが楽しいんだと思うんだけど」


 家庭用の、風流かと言われると違うよなぁ。楽しいかどうかは人それぞれだけど。


 クリスも俺も適当に言葉を濁して、就寝の挨拶をして部屋に引き揚げた。


「さっき、何を思い出したんだ?」

「山奥の村で人が不審な亡くなり方をすると、人里に運んでご遺体を見分するのですが、運び方が――」

「まて、みなまで言うな」


 流しそうめんを見てそれを思い出す神経、どうなってんだよ。


「テレポートなどの魔法を知っている人が引き取りに行くことができればいいんですけどねぇ。いつもいるとは限らなくて」


 しみじみと付け足すなっ。


 これから流しそうめんを見かけたら、そういうシーンを想像してしまうじゃないかっ。

 今日は大きな進展があったってのに、最後にこんなオチいらねぇよっ。

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