7月10日 世界の危機とは
14.おさがり
朝起きて、大学に行く準備をしていると台所から母とクリスのやりとりが聞こえてきた。
「いつまでもクリスちゃんがTシャツとゆるパンやトレパンばかりじゃダメよぉ」
「でも買ってもらうなんてことできません」
「なにいってんの。そういうのを含めてお世話じゃない」
「もうすぐ就職先とか決まって落ち着けますので」
「だったらなおさらよ。就職決まったらすぐに洋服がたくさんいるのよ?」
クリスは一応、主にネットで就活中だってことになってる。もちろんそんなものは一ミリだってしてないけどな。今はそれでいいけど「世界の危機」探しに時間がかかるようなら、フェイクとして就活に見せかけて昼間はそとに出てもらわないといけない。それよりも早く危機が何なのか思い出して解決しないと、だよな。
「それじゃ、その時はおばさまの服を貸していただくのはどうでしょう」
「だったら、そうね……、あのワンピースがいいわ。ちょっと待ってて、持ってくるから」
母はいそいそと自分の寝室に向かってった。
「明くんは、今日も大学ですね」
「午後の講義まであるから帰ってくるのは夕方かな。大学の友達にゲームのこと聞いてくるのと、ゲームショップ見てくる。情報が遮断されてるなら期待薄だけど」
「よろしくお願いします。わたしも明くんの『ぱそこん』を借りて情報検索してみますので」
「何か判ったらパソにメール送るから。使い方は教えた通りだ」
母がいない間に、心持ち小声でやり取りする。
なんか秘密のミッションみたいだよな。
……実際そうか。こんなこと他の人には話せないよな。
「クリスちゃん、これどう? ――あら明くんも、二人くっついて仲いいわねぇ」
「そんなんじゃねーし」
「明くん、照れてるんですか?」
「おまえまで調子乗るな」
それじゃ行ってきますと言ってさっさと離れる。
「就職先にその服はちょっと派手じゃないですか?」
「そんなことないわよ? わたしも働いている時に着て行ってたし、なにより、明と二人でお出かけの時なんかにちょうどいいわよぉ?」
「そういうことでしたら、喜んで」
「もう着ないからクリスちゃんにおさがりしちゃうわね。試着してみて」
母よ、何を期待してんだ。そんな雰囲気には一ミリだってならないからな。
反論したらまたうるさいから、スルーして家を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます