7月13日 迎えが来るまで

21.朝顔

 昨夜、「ダークネス・フローム・フォレスト2」を解いているとクリスが部屋にやってきて突然言い出した。


「明くん、朝顔ってどんな花ですか?」

「唐突だな。――ほら、これ」


 スマホで朝顔の画像を検索して見せた。


「写真で見る限り普通の花、っぽいですね」

「当たり前だろ。朝顔が異常な花だったら全国の小学一年生は夏休みが地獄になる」


 クリスが首をかしげているので説明した。


 朝顔は夏の朝に咲く花で、子供達の夏休みの宿題で花を咲かせて種を取れ、というのがあるのだ。普通の花だから適度に日光に当てて適度に水をやってたらちゃんと育つ――むしろ育ちすぎて蔓が家の柵とかに絡まって困るパターンもあるけど。


「朝顔がもしめちゃ特殊な花だったり、それこそファンタジックに異様だったりしたら……」

「あはは、蔓に捕まったり、花にかじられたりするかもですね。そんな花は子供に育てられません」


 大人だって無理だろう。


「で、どうして朝顔なんだ?」

「さっき明くんがおっしゃってた、朝に咲いて昼にはもうしおれてしまう、って小耳にはさんで、もしかして魔法的な何かなのかなと興味がわいたのです」


 そういや、期間限定で咲く花って、よく奇病を治す薬の材料だったりするよな。


「見てみたいんなら、近所の小学生がいる家に明日の朝そっと見に行ってみたらどうだ?」

「はい、そうします」


 クリスがにっこり笑った。




 うん、昨夜そういう会話もしたし、見に行けばって言ったよ。

 けど、なんで俺まで起こすんだっ。今日は午前の講義がないからゆっくり寝てられる日だったのに。


「さぁ明くん、朝顔観察に行きましょう」

「おまえ一人で行ってこいよ」

「見に行くおうちがどこか判りません」

「うちの向かいの並びの三軒先――」

「行きましょうよー」


 ひっぱり起こされた。

 くそ、どうしても連れていく気だな。

 なんで俺まで行かないといけないんだ。


 ぶつぶつ文句を言いながら、うきうきのクリスについていった。


 最近は朝でももう結構暑い。それでもちょっとだけ涼しい風が吹いて、日陰ではまだ気持ちいいって言える気温だ。

 できるだけ日陰を選んで歩いて、目的の家までやってきた。


 朝顔のプランターは玄関近くに置いてあって、自然な感じで観察できた。


「あれですね。……やっぱり魔力とかは、ないですね」


 まぁそりゃそうだろう、と思いつつ、ほんのちょっとがっかりしたのはナイショだ。


 でも考えてみればこういうやり取りができるようになったのも、爆弾を処理して平和が保たれたからなんだなぁ。

 ゲーム通りだとクリスは明日ミナリィエに帰るんだから、ちょっとの我儘ぐらい付き合ってやってもいいかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る