22.賑わい
四年ぶりに駅のそばの商店街で夏祭りが開催された。
そんなに規模が大きいわけじゃない、むしろ三十分もいればもうすべての店を回れるんじゃないかってくらいの小さな祭りだけれど行ってみることにした。
クリスのお疲れ様会みたいなものだ。
ちょっと行くだけなのに、クリスは母に浴衣を着させてもらって大はしゃぎだ。
着付けが終わったクリスは、紺色の生地に花火があしらわれた浴衣が、まぁ、それなりに似合ってる。
「どうですか? 明くん」
「うん、まぁ、いいんじゃないか」
「あらあら照れちゃってー」
「母うるさい」
これ以上母とクリスを一緒にしていたら何を言われるか判らない。さっさと祭りに行くことにした。
「駅の近くで夏祭りって、なにを祈るのですか?」
「祈る? いや、暑い時に賑やかにやって楽しもう、的な? あえて祈るとするなら商店街の商売繁盛かな」
昔は祈りなんかの意味はあったかもしれないけど今の商店街の祭ってそんな感じだ。
「娯楽的なものなのですね」
「あぁ。そんなに規模も大きいわけじゃないからな。けど三年間、中止になってたからそれなりに人は多いかもしれないな」
新型ウィルスの流行でそういった行事はどれも中止になってたんだ、と説明する。
「疫病が流行っている時こそ供物をささげて祈ればいいのに」
ミナリィエの祭りがまさにそんな感じらしい。クリスは神官でもあるから祭りの時は大忙しなんだとか。
本来の祭りってそうよな。
なんて話をしながら商店街に到着した。
駅のそばの商店街はショッピングセンターに押されて少しずつ店が少なくなってきている。
だからか、子供のころの祭りより出店の数も少なくなっている。
それでも小さな祭りにしては結構な賑わいだ。
クリスは目を輝かせてあちこちの出店を覗いてる。浴衣だから目立って、ほほえましいものをみる視線を集めているけど当の本人はきっと気づいてない。
一通り店を見て回って、一番欲しそうにしていたわたあめをおごってあげた。
通路の端によって、クリスはわくわく顔でわたあめにかじりついた。
「うわぁ、甘い、美味しい」
唇にわたあめをくっつけて笑うクリスに俺も思わず笑った。
まぁ、なんだ。せっかく来たんだからもうちょっと楽しんでいくか。
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