07.酒涙雨
改めて検索ワードを「ダークネス・フローム・フォレスト2」としてみる。
ヒット作だった1の一年半後に出てたのか。今から十年前か。俺が十歳のころだな。
1の方は、めちゃくちゃやりこんだ記憶がある。キャラのレベルをカンストして隠し要素みたいなのもオールクリアした。まだ小学生だったからゲームの時間が限られてて、多分二年近くかかってたはず。
あぁ、なんとなく思い出してきた。
滅多にゲームを買ってもらえないのと、その時遊んでいるゲームはとことん遊びつくす性格とで、2が発売された頃は「まだ1をクリアしてないから」と手を出さなかったんだ。
で、2が発売されてから数か月で「評判悪いらしい」って友達に聞いて、完全に購買候補から外れたんだったな。
すっかり忘れてた。
「どんな感じですか?」
「おまえ、評判悪かったみたいだな」
「えぇっ? どうしてですか? こんなに有能なのに」
クリスが尋ねてきたので意地悪く言ったらしょんぼりしたが最後の一言で台無しだ。
「クリスは神官戦士だっけ? 魔法と剣術で戦うのか」
「戦闘になると先に補助魔法を使って、剣がメインです。あ、回復もしますよ」
世にあるRPGの神官戦士のセオリーと似たような感じか。
剣と魔法どっちもいけるって、つまりどっちも中途半端って感じのバランスが多い職でもあるけど。有名なのは、ほら、超人気シリーズの2の二人目がそんな感じで……。
検索ワードを替えて調べてみたけれどオフィシャルページも攻略ページもないみたいだ。ゲームの内容が判れば「世界の危機」ってのに近づけると思ったんだけど。
よっぽどクソゲーだからなかったことにされてるのか?
まぁ、ゲームのことは、おいおい調べておこう。クリスが自力で思い出すかもしれないし。
「ところで、うちに住むのは仕方ないとして、地球とか日本とかの知識ってか常識ってどれぐらい知ってるんだよ。とんでもない行動されて俺まで同類って思われるのはイヤだぞ」
「大丈夫です! 異世界渡りをするにあたって知識や情報はしっかり叩き込んでいますから」
クリスは胸を張った。しかし最後に小さく「間に合わないので魔法で」ってつぶやいたのは聞かせてもらったぞ。勉強間に合わないからカンペ仕込んでるようなものじゃねーか。
「例えば……」
言いながらクリスは窓の外を見た。
つられて俺も見る。
まだ雨が降ってるな。夕立だしすぐにやむだろうと思ってたのに結構長く降ってるな。
「今日って『七夕』なんですよね? 七夕の夜に降る雨を『
へぇ? なんだそれ?
クリスが偉そうに言うには、織姫と彦星の別れを悲しむ涙だとか、説によっては二人が会うのを邪魔する雨だというのもあるらしい。
彼女がご高説を垂れている間に検索したら、本当だった。
「こういった細かい知識まで知っているので大丈夫です」
「ま、そういうことにしておくか」
たとえカンニングでも、すらっと出てくるのは偉いと思うよ。
「明くんもわたしが元の世界に戻るとなったら、泣いてくださいますよね?」
「そうだな、うれし涙を流して見送ってやるよ」
「またまた、照れ隠しですか? お可愛いこと」
なんかのマンガかアニメかのキャラの台詞を引っ張ってきたっぽいが無視して、俺は自分の部屋に戻った。
へんてこな同居生活が始まってしまったな。クリスには一刻も早く世界の危機が何なのかを思い出してもらわないと。
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