第31話 魔物の数

「西の空が明るい。何かが燃えているようです」


 ラウロの報告に、私たち三人は、深夜の教会の屋根に登った。


「あそこか。かなり離れているけど、確かに明るいわ」

「敵の根城方面でしょうか?」

「地図的には、その方向ね。……お祭り?」

「違うでしょ。あれは……誰かが魔物の村を燃やしたわね」


 三人で互いの顔を見つめた。

 その「誰か」に思い当たるものがある。


「なにしてんのよ。あいつら」

「まだ、そうと決まったわけでは」

「いや、そうでしょ? これだから脳筋は!」


 西の丘の向こうで何が起きているのか、帰ってきたら二人に聞くしかない。

 ……帰ってきたら。……帰ってきて。無事に。


 ──それから何時間が過ぎたことだろう。

 徐々に丘が白んでいく。夜明けが近い。


「あれは?」


 丘に影が立った。黒い馬。そして乗っている黒い人影。


「ヒメカだ! ……アーシュリーは?」


 ヒメカが、こちらに背を向けて、丘の下に矢を放っている。

 何本か撃った後、丘の上に白い馬が駆け足で現れた。


「アーシュリーっ!」


 シェリルがホッとした声を上げ、私に抱きついた。不安だったのだろう。


「……あの二人、追われていませんか?」


 ノエルの言葉に、凍り付いた。戦っているの?

 二人の馬が丘の中腹で立ち止まり、振り返る。

 その視線の先には……


「魔物!」


 丘の上に、十匹くらいの魔物がいる。小鬼ゴブリンだけじゃない。黒妖犬ムアサドも混じっている。

 その魔物に向かってヒメカが弓を撃ち、アーシュリーが剣を振って牽制した。


「戻れ! 二人とも! 戻れ! 戦わなくていいから!」

「鐘を鳴らしてください。アニカ」


 言われて、我に返った。これ、敵襲じゃん!?

 鐘を鳴らし、ラウロに南西門を開かせる。

 同時に屋根の上で三人で、両腕で「左! 左!」と示す。入れるのは南西門だけなのを二人は知らない。


 鐘の音で、ヒメカが屋根の上の私たちに気付いたらしい。アーシュリーに伝え、アーシュリーも笑顔で手を振ってこたえる。


「手を振っている場合じゃないのよ! 早く戻りなさい! いつまでこんな恥ずかしい恰好させるつもりよ!」


 ごもっとも。

 二人はいつまでも左を指す私たちの動きを、小首を傾げながらみている。早く意味に気付け! 脳筋!

 

 ◇


 ようやく、二人が砦の中に入ってきた。

 魔物たちはそれ以上二人を追うのを諦め、帰っていく。


「何があったのよ?」


 水を飲んでいる二人にシェリルが詰め寄った。


「魔物の村を見つけたぜ」

「で、あの火は?」

「燃ヤしたヨ~」

「何を?」

「食糧庫。麦やら野菜やら肉やら一か所に貯めているもんだからな」

「なんで、そんな怒らせるような」


 と私が言うのをシェリルが止めた。


「奴らをおびき寄せるということ? 考えたわね。アーシュリー」

「どういうこと?」

「相手が長期戦を仕掛けたら終わり。その芽を摘んだってことでしょ?」

「さすが、シェリル。お前は頭いいな」


 アーシュリーが口元の水を袖で拭いた。行儀の悪さにシェリルは顔をしかめたが、褒められて悪い気はしていないようだ。


「敵に食料が無ければ、ここを襲うか、引き払うしかない。兵糧的には俺たちが圧倒的に逆転有利になったということさ」

「あんた虎にさえならなければ、いずれ大将軍ね? そういえば、震えは?」

「止まっている。まだ虎は寝ているみたいだな」

「あとは敵が来るのを待つだけね。で、敵はどれくらいいたの?」

「ざっと見積もって、千かな?」

「せせせせ、千!?」


 むむむ無理よ! ここで戦えるの五十人かそこらよ!?


「あんた、数、ちゃんと数えられるんでしょうね!?」

「ひどいな。敵の数くらい、数えられるよ。百の集団が十個くらいあった」

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