第22話 自分の証明
随分昔に、経営企画で、その話が出た。
『この会社は何のために存在しているのか?』という根源的な問い。
それをアーシュリーが考えていたことに驚いた。
脳筋かと思っていたのに。……いや、単純だからこそ、その答えを導いたか。
帝国は、領民を守るために存在している。
単純明快で当たり前すぎる存在意義だ。
その為に誰かが死んでもいいのかは、優先順位の問題。命は全て重要だ。
しかし領民の命の上に、帝国の命が成り立っている以上、帝国は領民の命を守るために、全力を尽くすだけ。
護衛武官については、あっという間に話がまとまった。
最初こそ、渋ったものの、アーシュリーが行くと伝えたら、骸骨仮面が言ったとおりに、ラウロの態度が変わった。
最初は「では全員で向かいましょう」と言い出したが、そうすると屋敷の警護が出来ないので、数を絞るように伝えた。
「では20名で。屋敷の警護は4名もあれば大丈夫です」
「そういうもんなの?」
「敷地全体を考えると少ないですが、建屋の警護だけに絞ればなんとかなるでしょう。護衛武官は全員アーシュリーさまの配下につきます」
「全員はダメだってば」
「では私だけでもアーシュリーさまの
下手すれば親子ほど年齢が離れているのに、奇妙なものだ。
どうしてもアーシュリーの近くにいたいらしい。
それよりも問題は第三夫人のシェリルさまだった。
◇
「絶対に嫌」
なんで自分が協力しなくてはならないのだ。戦いにも帝国にも税収にも興味ないし、離縁されたところで問題はない。第三皇子の寵愛を受けている訳ではない。自分は格上の名家の出であり、出自も良く分からない庶民の格下の夫人の命令を聞くいわれもない。つまり自分は下賤のものを助ける気はない。と、言葉を変えながら、長々と説明してきた。
どこの世界にも地位や肩書が
したことがないことは、しない。
自分が不利になることは、しない。
立場や地位は、判断基準。
自分の正論は、一切曲げない。
つまり自分に自信のないこと、自分が出来ないこと、自分が無能かもしれないことを、証明したくないのだ。そこにあるのは、自分の本当の姿に対する恐れだ。
日本にいたときに、嫌というほど見てきたし、こんな時、私は自分の正論で、押し返そうとしていたものだわ。
私も自分の正論を一切曲げなかったからね。正しいと思う選択肢を主張することが正しいと思っていた。
だって、私が正しいもん。
……でも、それは違っていた。やり方がね。今なら少しわかる。
ぶつかって言い負かして相手の弱さを指摘して、自分が議論で勝ったとしても、何も解決しないんだ。
ゴールが同じならいい。
理由が別であっても。
重要なのは、その人がやらなくちゃいけないと思うこと。やらされることは、誰もが嫌なこと。
今は、あの村を助け、魔物を排除することがゴールだ。誰かの力や正しさを証明することではない。その為の力を集められれば、なんでもいい。
大義があるのだから。
「そうですか。では、第三夫人のお立場は危なくなりますね」
「何が危なくなるって?」
「第四夫人、第五夫人、第六夫人と私が力を合わせ、もしも魔物を撃退したら、第四夫人が第一夫人となるかもしれませんよ?」
怪訝な顔になった後、少し神妙になった。
理解できたのだろう。
自分が最下位になることを。
「第三夫人ならご理解いただけると思ったのですが、そうですか。ご協力はいただけませんのですね」
「待て」
不安気な顔になっている。
「帝都に知れたら、妃殿下のご家族はどうお思いになるでしょう?」
とどめだ。
シェリルさまは、キッとこちらを睨んだ。
姉弟と比較するのは誰でも嫌だろう。
そして、それは悲しそうな不安な目に変わっていく。
「お力を、少しお貸しいただくだけで良いのです」
「だが……力……なぞ……私には……」
シェリルさまはうつむき、その声は、心細そうだった。
「私は……その……実は……魔力を……」
「魔法書の力をお貸しいただきたいのです」
「魔法書? これのことか?」
その部屋にある膨大な書架を指さした。
「伝令や補給に利用出来そうな魔法書があれば、お貸しください」
「そんなので良いのか?」
呆れた顔になっている。
「戦いよりも、重要です」
歴女(主に小説と漫画と大河からの知識だ)でもある私は知っている。
戦いは、戦闘以外の場所が重要だ。
兵糧、伝令、工兵の差が戦いを有利にする。
あの骸骨が伝令と言い出して、ピンときた。
「いや、貸したところで読めまい? 魔法語だぞ?」
「はい。下賤の身ですので、魔法語が読めませぬ。是非、シェリルさまに使える魔法書をお選びいただき、それを利用していただきたいのです。それならば、シェリルさまの力を使わず、その力を示すことができませんか?」
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