第35話 メディウムとアルケミスト

「リディア……さま?」

「何を呆けておる? はよう指示を出せ。護衛武官が死ぬぞ?」


 え? あ、はい。……え? リディアさま?

 リディア第一夫人が、例の半裸な服で教会の屋根に立ち、眼下の戦闘をニヤニヤと見ている。

 なにこれ? 夢?


「しっかりせんか? 武官はともかく、エレナが死なぬようにせい? あれが死ねば、わらわがぬしを殺すぞえ」


 え? エレナさまもいるの?

 見下ろすと、赤いドレスのまま、エレナさまが西門の近くまで来ている。


「危ないですよ! エレナさま!」


 一瞬、エレナさまは屋根の上を見上げたが、すぐに無視して、武官の槍に手をかざす。その槍の穂先が白く光る。


「迂遠よのぉ。ひとつひとつ、聖剣化させるつもりか?」


 そういうと、リディアさまは、笑い始めた。


「何をされているんです? エレナさまは」

「聖剣付与じゃな。あれで傷を負った魔物は、ひどい痛みが体を走り抜け、吐き気をもよおし、数年間は苦しみ続ける」


 ……え、こわ。残酷。


「アニカ。もう大丈夫。ここを凌いで」


 耳元に、シェリルの声がする。


「シェリル、逃げたんじゃないの!?」

「バカね。あんたみたいに、何にもできない人を置いて逃げるなんて、魔法院の学長の娘がすると思う?」


 思う。


「戦力を連れてきたわよ。ありがたく思いなさい?」


 それも思う。

 てか、それを先に説明しなさいよ!


「エレナは、当代最高峰の魔導探究者アルケミスト。彼女を凌駕する魔法使いはほとんどいないわ」


 そんなにすごいなら、最初から連れてきてくれればよかったのに。


「ただ、魔力量がないから、すぐにガス欠になるけど」


 使えるのか使えないのか、どっちなんだよ!


「ふん。まあ、ここならエレナの魔力量不足は問題なかろう。よき触媒もおる」


 リディアさまが余裕で見下ろしている。

 よく見たら、リディアさまは、宙に浮いていた。


「だが一番の魔女はあやつではないぞよ?」

「シェリル? リディアさまが、いま屋根にいるんだけど『一番の魔女は別にいる』って? 他に誰を連れてきたの?」

「えー、ちょっと知らないかも。その屋根にいる第一夫人は、三回も魔法院を留年して、魔法の基礎も出来てないのに、勝手に精霊と契約して卒業した逸材だけどね~」


 シェリルの声は明るい。


「……聞こえておるぞ。シェリル。やれやれ、事情を知るものがいると、面倒よの。力を見せねば信じぬか?」

「シェリル、リディアさまが力を見せるって言ってる」

「了解! 見せてもらうわ!」


 リディアさまが行っていいのかと確認の視線を送る。


「お願いします!」

「ふん。ああ、そうじゃ。おぬし、あとで、シェリルに礼を言え? あのむすめ、初めて、わらわとエレナに話しかけたくせに、いきなり頭をさげて、わらわたちに力を貸せと泣いて頼ってきたぞえ」


 シェリルが泣いて? 頭を下げる??


精霊契約者メディウムの実力をみるがよい」

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