第14話 第五夫人(忘れてた;)

 つまり目下のゴールは、魔物を追い払い、税収を確保すること。

 そのためには騎士団を雇う必要がある。

 だが、お金がない以上、何ともならない。


「私が、戦ウ! 弓、上手!」


 ん? どういうことだ? 直接、戦うつもりなのか?


「ヒメカさんのご実家は代々武将を産んでいる家なの。だから、ちょっと……ね」


 少し呆れたように、ノイエさまが言う。

 ああ、なるほど。血の気が多い家柄か。ノイエさまの顔には明らかに「脳筋」を見ている表情だ。


「アーシュ。剣士。戦ウ!」


 ヒメカは一生懸命、扉を指をさす。

 アーシュ? 誰だ?


「第五夫人。アーシュリー・シャドウハーツ。あの子も騎士の家系で、剣術と魔法ができそうです」


 あー。噂に聞いた、なんか気難しい人か。

 そう言えば、まだ一度も会ったことはない。


「アーシュ。強イ。戦ウ!」

「二人じゃあ、戦えないでしょ?」


 戦いに慣れた騎士団が必要だ。

 仮に騎士団が手に入れられたとしても、それを維持するお金を考えたら、頭が痛い。二十人分の武器や食料が必要になる。


 武器はなんとかなるかもしれない。

 この屋敷にある護衛武官の武器庫は、未使用の武器や防具で溢れていた。


 食料はどうか。

 難しい。村に負担させるわけにもいかない。村からしたら、収穫を魔物に盗られるか、騎士団に取られるかの差でしかない。自分たちで用意するしかない。


「千人分! アーシュ! 千人分」

「えー。千人分も?」


 どうもアーシュリー妃は大食漢らしい。

 千人分も食べられたら、今月中にこの領地は終わる。


「そんなに食べる人、見たことないよ? ヒメカ」

「誰が千人分食べるんじゃい! 千人分の働きをするって言ってんだよ!」


 扉が開く音より先に、怒鳴り声が飛び込んできた。

 バーンと扉が壁にぶち当たる。


「なんで、お前は、こんな大事なことを、俺に話さないんだよっ!!!!」

「え? え?」


 あ。さっき、廊下であった、青い服を着た人だ。

 え、廊下で話を聞いてたの?


「そもそも、お前、第一、第二、第三、第四と会っておきながら、なんで、第五を飛ばして、第六と仲良くなってんだっ!!!!」

「え? な、なに?」


 助けを求めて、ヒメカとノイエを見ると困った顔になっている。


「ど、どちらさん?」

「俺だよ!!! 俺が、アーシュリー! アーシュリー・シャドウハーツ!!! シャドウハーツ家の長女にして、ゼファーさまの第五夫人だよっ!!!!」


 あー! この人が、第五夫人か!

 あまりの剣幕に、オロオロしてしまう。怖い。


「な・ん・で・あ・い・さ・つ・に・こ・な・い・か・なっ!」


 アーシュリーさまは地団太を踏んで悔しがっている。

 口をとがらせて、足を踏み鳴らした。


「しし、失礼いたしました。ご挨拶が遅れまして。えっと、私、数日前にこちらに来ましたアニカと申します」


 習った通りの礼をしてみるが、


「挨拶なんか、いいっ」


 とそっぽを向いて腕組みをする。

 ……いや、あんたが、いま、挨拶しろと……。


「まあまあ、アーシュリーさん。拗ねないで?」

「拗ねてない!」


 ノイエさまの執り成しも受け付けず、床を踏み鳴らしている。


「アーシュ。部屋。私ノ」

「知ってるよ! キー! モー! あんたもあんたも、こ・え・を・か・け・ろっ!」


 ああ。これはヒステリー系ね。ずっと地団太踏んでいる。

 ヒメカもオロオロするばかりだ。


「アーシュは1000人分。強イよ」


 返事をしない。まんざらでもなさそうだ。


「本当ですか?」


 それにも返事はしない。

 人の部屋に自分から飛び込んできて、ダンマリとか、面倒な奴だ。


「でも、アーシュリーさまも、さすがに魔物相手は無理ですよねぇ」

「無理じゃないしっ」


 即答だ。


「アーシュ、強イよ? 魔法、剣、凄イから」

「わー。助かりますー。アーシュリーさま、西の村を救うのにお力をおか」

「断る」


 食い気味で断られた。

 なんなんだ。コイツは?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る