第29話 魔物の本拠地

 シェリルは随分前からアーシュリーの秘密に気付いていたらしい。アーシュリーだけじゃない。ノイエのことや、ヒメカのことも、よく見ている。興味のないふりをしているけど。人事部みたいな子だ。

 ちなみに、ノイエとブージェの仲を怪しんでいる。これは興味と言うより醜聞ゴシップの類。


 他人に興味が薄い私にはできないな。


 髑髏ドクロはシェリルのことを「あの子は、自分が何も出来ないと思っている」と言ってた。

 力がないわけではない。確かに本の力だけど、その能力を使いこなすくらいに精通している。その努力は、彼女の力だと思う。頭だって悪くない。


「残りの備蓄は二週間とちょっと。つまり、魔物が二週間以内にもう一度ここを襲って、そこで相手を全滅させなければ、あたしたちの負け。で、どうすんの?」


 口調がキツいのが難点だ。胃が痛くなる言い方をする。


 小鬼ゴブリンと戦って分かったことがいくつかある。

 こちらは弓を主体に戦うしかないこと。

 それと小鬼は簡単には死なない。痛覚が乏しい。

 心臓を突くか、額に矢が刺されば死ぬが、それは武官ですら難しい。

 ブージェたちのように、大量に矢を撃ち込み、出血死を狙うのが正解らしい。必要なのは大量の矢だ。その準備にあっという間に一週間が過ぎていく。

 どの道、早く魔物が来てくれなくては、時間切れが先に来る。


「とはいえ、魔物に『襲ってください』と頼むわけにも」


 かといって、戦わずに済む方法もない。


「残りの敵の数も知りたいな。あと何回くらい来そうなのかわかるとありがたい」


 アーシュリーだ。あの後、体力は回復したが、事の顛末を聞かされて、少し凹んでいた。


「姫は、まず御身をお大事になさってください」


 ラウロはそうアーシュリーをいなす。

 ラウロの生家マッツォーリ家がアーシュリーの実家、シャドウハーツ家に代々仕えていたという情報は本当らしい。気付けばラウロはアーシュリーを姫と呼んでいた。

 ラウロはアーシュリーが、人虎ワータイガー化した時の対処として寄越されているのだろう。いけすかないただのヒゲオジだと思っていたが。


「村長。そもそも、魔物はどこから来ているの?」


 数が少なければ、こっちから奇襲をするという手もある。


「歩いて丸一日ほど向こうの西の山に、随分昔に捨てられた村がございましてな。いまは、そこを魔物の群れが根城にしております。巣窟と言えましょう」


 そこで、数十匹の魔物の群れを見たことがあるという。


「馬なら半日もしない場所ね。魔物は小鬼族だけ?」

「さあ、わしらは、魔物には疎いので……。ですが、先日襲ってきた魔物よりも大きな種類もいたように……。ただ四年以上昔の記憶ですのでなぁ」


 なるほど。数もアテにならないわね。

 

「メイジはいる?」


 シェリルの質問に村長は首をかしげた。わからないらしい。


「誰かが、その巣窟の様子を見に行くのはどう?」

「では、私が」


 ラウロが手を挙げるが、私がそれを止めた。


「武官には力仕事をお願いしたいの。この砦の改善を頼みます。ヒメカ。アーシュリー。馬に乗れるわね?」


 ラウロが血相を変えた。


「正気ですか?」

「封印を解かなければ、いいでしょ? 自分じゃ解けないんじゃないの?」


 皆の目がシェリルに向かう。

 しぶしぶシェリルが頷き、アーシェリーの服から、護符を抜き取った。

 前に渡した護符だ。


「これと封印系の魔法書を使えば、首輪の力を一時的に強めることも弱めることもできる。そもそもアーシュリーが震えだしたのは、中の虎が興奮したからでしょ? いま、アーシュリーが震えていないのなら、虎は完全に眠っていると思う。じゃないの? ラウロ」

「しばらくはそうかと。無理矢理、封印を解かない限りは」

「なら、俺にやらせてくれ。もしまた震えが始まったら、必ず帰る。騎士の約束だ」


 アーシュリーが訴えかけた。


「ヒメカ。アーシュリーの様子には注意してね」

「任せロ」

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