第18話 月夜の庭のかくれんぼ

 木立の影、いや噴水の裏か?

 気配はするが、声の主の姿が見えない。聞き覚えがない若い男の声。


「ふーん。でもアーシュリーを、戦いに連れて行くにはどうしたらいい?」

「おだてに弱いし、挑発にも弱い。工夫次第でいかようにも」

「あの子、強いの?」

「潜在能力は最強。強い魔法剣士だ。戦場は初だけど」


 つまり実戦知らずの魔法剣士か。


「現場の指揮官としても有能だ。ヒメカも戦闘技術は高い」

「言葉通じないじゃん?」

「少なくとも、弓は名手。この二人を連れて行けば、相当の戦力になるだろう」


 やたらと詳しいな。確かにヒメカは弓の話をしていたし、アーシュリーは千人分の働きができるとヒメカは言っていた。


「ヒメカもこの国の系統ではない魔法が使える」


 じゃあ魔法剣士が二人もいるってこと?

 弓を使う人を魔法剣士に入れていいのか分からないけど。


「だが不死身じゃない。彼女たちも、それに護衛武官だって負傷したり、死んだりすることはある。力を過信しないこと。村を救いに行くのならノイエも連れて行くと良い。彼女は神官だし」

「それって……死んだら、神の導きを……って意味?」

「ははは。まさか。ノイエは治癒魔法が使えるし、薬草学にもたけている。戦場には彼女が必要だ。でも、命がなくなるほど大きな怪我には対処させてはいけない。特に死者を戻すのは厳禁だ」


 ノイエは衛生兵役か。この三人と護衛武官をいくらか連れて行けば、魔物を追い払うくらいは出来るか?


「あと伝令を使えるようにすれば、遊んでいる兵がいなくなる。効率的に配置できるはずだ」

「遊んでいる兵?」

「防衛側は何もしない兵が出やすい。誰からも襲われない場所を守り続ける兵。これを襲われているところに効率よく回さないといけない」


 なるほど。人員計画みたいなものか。


「じゃあ、私がその役をやろうかしら。それくらいなら」

「シェリルに相談してごらん? あの子は、自分が何も出来ないと思っているが、あの子の持ち物は、なんでもできるものばかりだ。魔法書の中で役に立つものがある。あの子は自分の力を使わないことを卑怯と考えているが、力を利用する価値を知らないだけ」


 なんだか謎かけみたいな言葉。

 それに位置を変えてもまだ姿が見えない。


「なら、夫人全員に声をかけるわよ」

「ははは。それはやめておくといいよ」

「なんで?」

「君は面白いな。協調性が高いのかな」


 協調性……えええ? それは、私には全く無関係な言葉でしょ。

 現世にいた時は、協調性がないって言われていたし。

 人の気持ちを考えないとか……我が強いとか……。


 でも確かに、協調性のなせる業かもしれない。みんなに声をかけようとしたのは、手間を省くというよりも仲間外れを無くそうとしたからだ。


「重要なのは、一人一人に、目的を与えること」

「みんなの前で与えればいいじゃん?」

「いや。どの妃も、プライドがあるよ。みんなの前で話をしたら、君に反対することがとなる。誰も君の言うことを聞かなくなる」


 そういえば、できる先輩は、関係者と個別に話していたな。

 なんだっけ? 「握る」とか言ってた奴かな?


「そして何もできないことが君の武器だよ」

「はあ? 馬鹿にしてんの?」

「エレナは、リディアが参加するのであれば、必ず参加する。自己中心的だが、非常に論理的な考え方をする。必ず勝てる側につくから、リディアの側を離れない」

「なにそれ? リディアの腰ぎんちゃく?」

「リディアは、ある意味、最強の精霊使いだ。『契約者』だからね。だが非常に感情的で自己中心的だ。目立ちたがり屋で、責任を負うのを嫌う。自由気ままな性格だ。興が乗らない話は断るし、下手すればぶち壊しにくる。だから最後に頼れ?」


 まるで何もかも知っているような口ぶりだ。

 そして、さっきから、私の背後に巧妙に回り続けている。

 その姿はなかなか掴めない。


 だが、私もくるくると振り返りながら、計画的に彼を追い込んでいた。

 ここで背後で話しかけてきたら、隠れる場所はないという位置に立った。


「で、あんたは誰なの?」

「俺か?」

「『俺』って、あなた失礼でしょ? 私、第七夫人だけど、妃殿下の立場よ?」

「……はは。これは失礼。アニカ妃殿下。異世界から来た姫よ」

「っ!?」

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