第5話 第三夫人と第四夫人 ①

 険悪なムードになった第一夫人の部屋を後にした。

 ごめんあそばせ。


 しかし、さすが第一夫人。びっくりするほど美人だし、半裸だし、部屋はでかいし、日当たりもいいし、心なしか、私の部屋よりも掃除が行き届いている感じがした。

 自分で掃除をするタイプには見えない。きっと、侍女たちをコキ使っているのだろう。


 第二夫人もキツそうな感じだけど、美人だったなぁ。

 女から見ても美人って、正直癒されるけど、ちょっと二人とも性格に難がありそう。


 ……最初の印象、良く出来なかったなぁ。

 二人とも、最後まで第七夫人とか言って、名前を呼ばないし。確かに、高貴な出自かもしれないけどさ、あれはないわー。最初から、こっちを下賤とか町娘とか、感じワルっ。


 でも第一夫人とか第二夫人だからなぁ。逆らえないよなぁ。


 自室に戻ろうとしたが、どうも階を間違えたようだ。

 どこからか下に降りる階段はないかと探していると、目張りをしていない扉を一つ発見した。


 その扉から漏れる匂いは、どこか覚えのあるものだった。

 日本にいたとき、学生時代にたまに行ってた場所。


 護衛武官は「三室しか使うな」と言ってたけど、よく考えたら、私、妃殿下だよね? 七番目とはいえ、護衛武官よりも偉いんじゃない?

 だから、護衛武官の言ってたことはお願いであって、強制力はないはず。


 扉を開けた。


 ビンゴ!

 暇つぶしの部屋だわ。ザ・図書室!

 膨大な書架から、あの古い本とインクの独特の匂いが漂っている。


 ああ、久しぶりね。

 日本にいたときは、本屋や図書館なんて受験勉強か資格試験の時くらいしか来てないのに、なに、この落ち着いた雰囲気。


「いろんな本があるー」

「ちょっと、勝手に入って、ナニはしゃいでんのよ?」


 あ、先客がいた。

 失敬。声が大きかったみたい。


 奥の書斎スペースみたいなところから、黄色い服の女の子が顔を出している。


「大変、失礼しました。私、先日、こちらに嫁いでまいりま」

「いや、挨拶とかいいから。早く出て行ってくんない?」

「え、……でも」

「でも? なに? なんか用なの?」

「暇つぶしの本でも探そうかなぁって」

「はぁ?」

「私も、こちらに来てから、暇で暇で、なんか面白そうな小説とかないかなって」

「ちょっとなんなの? ねぇ、誰かいないーっ!?」


 少女がめちゃくちゃキレだした。

 なに、独り占めするつもり?

 そもそも、この世界では『図書館では静かに』という文化がないみたい。

 これだから中世風の異世界って奴は遅れているんだよ。


 よし、どこの子か知らないけど、このお姉さんが躾て差し上げましょう。


「本を読む場所では静かにしないとダメでしょ?」

「はあ? あんた、なんなのよ?」

「あのね、そういう口の利き方もよくないよ?」

「ちょっと、口の利き方って、あなたが私に言うの?」

「あのねぇ。私、これでも、ここの皇子さまに嫁いできたんですけど?」

「は? お前みたいな町人風情がか?」


 ん? まて。私のどこが町人風に見える?

 しかも、妃殿下に「お前」とか「あんた」とか、何様なのよ?

 今日は、ちゃんとしたドレスをまとい、それなりに見えると思うけど?

 これだから、教養のない生意気な子供は好きになれない。


「ふんっ、あなたのその黄色いパジャマみたいな服のほうが、よっぽどおこちゃまに見えるけど?」

「これはパジャマだからいいのよっ」

「へー、あなたそんなパジャマでこの屋敷をうろうろしているの? それは礼儀知らずだわ」

「……自分の部屋でパジャマでいることの何が問題なの!」

「はぁ? 自分の部屋ぁ? 勝手に独り占めしないでもらえる?」


 その時、後ろの扉が開いて、ものすごい勢いで誰かが飛び込んできた。

 そして物凄い力で私の腕を引いた。

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