第4話 第一夫人と第二夫人 ②

 その笑い声は、なるほど、高貴な人だと思わせる、鈴のようなだ。これだけで格の違いを感じさせる。


 てか、何が可笑しいんだよ?


「いかにも、私がリディアじゃ。第七夫人」

「あ、アニカと申します」


 何回目だかの礼をする。あれ? さっき私、名前言ったよね? ははは。


「私は、自分から名乗った方がよろしいかしら?」


 緊張で汗が流れる。

 誰だ、この赤い服。オレンジの髪。緑の瞳で勝気な表情……。

 たしか、えーっと……ダメだ。エヴァのアスカが出てきちゃう。


「私は、エレナ。エレナ・シャイドグレム。第三皇子の第二夫人を務めています」


 そういうと、立ち上がり、私の何十倍も洗練された礼を見せた。


「あ、きょ、恐縮です」


 背は私よりも小さいのに、威圧感が物凄い。


「エレナ。第七夫人が、怯えておる。やめよ」

「ふふ。失礼いたしました」


 微笑みまで洗練されているが、明らかに下に見られている。

 吞まれないように、おちついて、深呼吸をした。

 別に二番だとか一番とか関係ない。七番でも妃は妃だ。吞まれちゃいけない。


「で、何か用事か? 来たばかりなら、わからぬことでもあるかえ?」

「そうなんです。実は」

「そうかそうか。わからぬことだらけであろう。皇室のことは町娘の下賤には分からぬものよ。しかし気にすることはないぞえ? ここでは指示された通りに動けばよいのじゃ」


 食い気味に軽く出自をディスられたが、確かこの第一夫人の実家、格は相当高い上に、本人も若くして学問を究めたとか。貴族しか入れない大学の出身だったはずだ。町娘の私とは格が違う。


「あ、いえ、その指示というのが」

「指示は、追って侍従官からまいりましょう。第七夫人」


 アスカ、いやエレナさまが口を挟んできた。


「あ、そうなんですね?」

「特に何も考える必要もありません。指示通りに振る舞えばよいのです」


 聞きたいのは、そういうことではない。


 このエレナさまも、リディアさまと同じ大学を出たとかで、この二人は先輩後輩の仲だと、馬車で聞かされていた。この二人は、日頃から仲が良いのかもしれない。こうやって部屋を訪問しあって、しかも片方は、こんな半裸の恰好でくつろいでいるのだ。


 この二人に聞けば、分かるのではないか?


「あの、皆さんは、普段、どう過ごされていらっしゃいますか?」


 その後、長い沈黙。

 それに耐えかねたように、エレナさまが口を開いた。


「『どう』とは? もう少し具体的に教えてもらえませんか?」


 ん?

 どうって、どうだよ? どう過ごしてんのか? って聞いただけ。


「はい。例えば、朝起きて、身支度をして、朝食をとった後とか」

「昼食まで待てませんか?」

「いえ、そういうわけでは」


 おいおい、私に食いしん坊キャラ付けでもするつもりか? 早く飯を寄越せと言っているわけではないんだよ。


「時間を過ごせばよろしいのでは?」

「あ、そこです。皆さん何をして、時間を過ごしていらっしゃるのかと……」


 みるみる、第一夫人リディアさまの顔色が変わっていく。それも悪い方向にだ。


「第七夫人。それは、このエレナが、何もしていないと?」

「いえ、滅相もございません」


 あ、そういうことか。

 これは……彼女たちもなんにもしてないのか? 

 しかも、それを恥じている。


 いや、それより、第一夫人は自分のことじゃなくて、第二夫人に話を振っていった。ひでぇな。


「わっ、私は皆さんと違ってちゃんとすることがありますからっ!」


 エレナさまが立ち上がって怒っている。

 これはマズいな。変な方向に怒らせた。


「皆さん? またれよ、エレナ。その『皆』とは、わらわのことも入っているのか? ぬしはわらわを、そのような目で見ておったのか!」


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