第2話 聞いてた話とちょっと違わない?
この三週間は大変貴重な時間でしたわ。
付き添いの侍従官に、皇室の礼儀やしきたりを、しっかりと教示していただき、
おほほほほ。
……って、やってられっか!
さすがに三週間は長旅だ。痔になるかと思うくらい。
豪奢な馬車だけど、狭いんだよねぇ。足も腰も伸ばせないし、道はガタガタ。
この国は、もう少し、道を整備するべきだ。
大学時代に女だけで夜行バスの旅行に行ったの思い出した。途中のPA休憩で、何が嬉しいって、腰を伸ばせるのが嬉しい奴。みんなで「ばばぁか」って笑ってたな。
そんな私が人妻。
ふふ。しかも第三皇子ゼファーさまの妃。
しずしずと馬車に揺られて地方まで嫁ぎに行くの。
道すがら、私、馬車のカーテンを開けて、沿道の人に手を振ろうと思ったんだけど、誰もいない。さすが辺境。かなり寂れているわね。
そんな田園風景の中にそびえたつように大きな宮殿。
「到着しましたぞ。妃殿下。最低限の礼儀は教えましたぞ? これで私も叱られずに済みそうです」
この三週間でめっきり痩せてしまった侍従官が、私の荷物をもって、このめちゃくちゃ大きな宮殿に入って行くんだけど……。
いや、いいのよ? 家がでかいのは、帝国の権威の証。このバカでかい宮殿も、権威としては、最高級よ。
でもさ? 出迎えなし?
てっきり、皇子が出迎えてくれると思ったが……。
せめて、宮殿の人はいないのか?
「実は、第三皇子様は、5年前から人前に出ていません」
侍従官が今さら言い出す。何で今まで黙ってたん? 大事な話やろ?
「少しでも、館の暮らしが華やかになるようにと、ご夫人をお集めになっているのですが……。未だに帝都の祭典などには参加できぬくらいに、弱っておいでのご様子」
「病気なの?」
「わかりません。とにかく誰とも会ってはくださりませんので。皇室御典医ですら、お会いいだけません」
可哀そうにという顔をされたが、自分に対してなのか、皇子に対してなのか分からない。まって? 病気ならうつるかもしれないじゃないの。
「では、ごきげんよう」
そういうと、宮殿の通用門をノックして帰っていく。ちなみに正門は賓客を迎える時以外には使わないらしい。つまり、第七夫人なのに、私は賓客扱いではない。私が貴族出身じゃないからか?
侍従官がトボトボと来た道を帰っていく。その背中に聞きたいことはいっぱいあったが、気の毒になった。また三週間、あの狭い馬車で帰るのかと思うと、少し同情する。が、途中であいつがスキップしだしたので同情を取り消した。
「お待ちしておりました。第七夫人、アニカ・シルバストリ様ですね」
通用門から、顔を出したのは、精悍な顔つきの男だ。
「私、この屋敷の護衛武官長を務めております。ラウロ・マッツォーリと申します」
「初めまして。私、第三皇子に嫁いでまいりました、アニカと申します」
ラウロは40代のイケオジだ。護衛武官の制服を着て、口ひげを生やし、背が高くて胸板が厚い。侍従官と違って、男前。
「お部屋を案内いたします。アニカ様がご利用できるお部屋は、三室ございます」
まあ、三室も!? すごーい!
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