とばっちりを食う私


「おいおいアドルファス」


 ここでルードヴィヒ王弟殿下が割って入った。頭痛をこらえるように、額を指で押さえている。


「君ね、色々と省略しすぎだから。物事って伝え方で決まるからね? 自分の不注意な言動がどういう結果を引き起こすか、もっとよく考えたまえ」


 ルードヴィヒ王弟殿下の指摘はもっともであるのに、甥のアドルファス王太子殿下にはこれっぽっちも響かなかったようである。


 彼はクリアな青い瞳を叔父のほうに向け、淡々と答えた。


「僕は叔父上にだけは言われたくありません」


「え、なんでよ?」


「興味本位で呪いの腕輪を嵌めちゃう人に、自分の不注意な言動が引き起こす結果を考えろ、と言われましても。説教って『何を』言うかじゃなくて、『誰が』言うかが重要ですからね」


「う……ごめんよ、それは」


 たじたじの叔父上。


 私はこっそり『頑張ってください、ルードヴィヒ王弟殿下。物事は伝え方で決まる――あなたが甥っ子に指摘したことは、的を射ているのですから』と心の中で励ました。


 けれど口には出さなかった。呪いの腕輪を嵌めちゃった件は、やはり迂闊だと思ったからだ。


「――クエイル伯爵」


 アドルファス王太子殿下がふたたび私の父に向き合う。それは『自分は何も恥じることがない』という堂々たる態度である。


「安心してください」


「え、何が?」


 取り乱した父のひどい返しを聞き、私はヒヤヒヤした。


 大国の王族に、そんなふうにぞんざいな受け答えをしちゃだめです!


「ディーナさんと僕は似ています」


「似ている? どこがだね?」


「彼女も僕を『顔で』判断しました」


「はあ?」


「ですから、ディーナさんも僕の顔がタイプだそうで、つまりは相思相愛なのです。やったね」


 やったね、じゃないだろ……父が小声でそう呟いたのが、隣席にいる私にはかろうじて聞き取れた。


 ちょっぴりおかんむりな様子で、父がこちらを見てくる。


「ディーナ、彼はあんなことを言っているけれど、そんなことないよな? うちの娘は初対面の男性を顔で判断したりしない――私はそれをよく知っているんだ」


 う……ごめんなさい、お父様。


 私はかぁっと顔を赤らめ、早口に答えた。


「え、あの……確かに私、初対面の時アドルファス王太子殿下にそう言いました」


「ん?」


「彼の顔は素敵だと言いました」


「なんだって」


 ガーン――……父、固まる。


 こちらは羞恥で身の置き所もない。


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