ウィンダム氏が人助け? 想像がつかなすぎて、脳がパニック!


「ふたりはどういうご関係なんです?」


 ルードヴィヒ王弟殿下が尋ねると、店主のロイがため息まじりに答えた。


「ウィンダムとは幼馴染なんですよ。腐れ縁というやつです」


 それを聞き、全員が『この面倒な人と、子供の頃からの付き合いだなんて……お気の毒に』とロイを思い遣った。

 ところが元凶のウィンダムは自己評価が高いので、次のような言動になる。


「つまりロイは、この町でもっとも幸運なモブということになります。それはなぜかというと、なんの取り柄もない凡人の分際で、この偉大なるウィンダムの人生を、幼少期から見守ることができたのですから!」


 すると無関係のユリアがグイと身を乗り出し、店主のロイに話しかけた。


「あの、そろそろガツンとやっちゃったほうがいいのでは?」


「え?」


 ロイが目を丸くする。

 ユリアが平坦に続けた。


「幼馴染なら心を鬼にして、やつの目を覚まさせるべきです――それとも何か弱みでも握られています?」


「いえ、弱みを握られているというのはないのですが……昔、人生で最大のピンチに陥った際、こいつに救われたことがありまして」


「え!」


 全員の声が揃った。

 ――ウィンダム氏が人助け? 想像がつかなすぎて、脳がパニック!

 ロイが眉尻を下げ、なんともいえない表情で語り始めた。


「私が子供の頃、一家で夜逃げする寸前まで追い詰められたことがあったんです。親が知り合いの借金の保証人になったのですが、借りた本人は逃げてしまって、うちが代わりに返済する破目になって。まともに働いて返せる額ではないし、まずい相手からの借金だったので、家族で頭を抱えていたのですが、そこに当時十二歳だったウィンダムがやって来て……」


 言葉を切り、ロイがウィンダムを眺める。

 ウィンダムは終始自慢ばかりしている嫌味な男だが、この場面ではなぜか出しゃばらす、ツンとお澄まししていた。

 ――さぁさぁ私の手柄話だ、ありがたがって聞きたまえ! と自ら意気揚々と語り出しそうなものなのに、この絶好の機会ではそうしない。それが憎いというか、彼のちょっとした可愛げのように感じられる。

 続きを語るロイの口角は微かに上がっていた。


「沈み込んでいる私たちを見て、ウィンダムがこう言ったんですよ――『僕ならカードゲームの博打で、すぐに大金を稼げる』と。あの時は親も追い詰められてどうかしていたのか、夜逃げ用にかき集めた全財産をウィンダムに託して、博打の大勝負に出ました」


「結果は?」


 尋ねられたロイは晴れやかな顔で、両手を広げてみせた。


「借金を全額返済して、余ったお金で親がこの建物を買って、食堂を開きました。親はもう隠居したので、私があとを継いだのですが」


 大きな建物なので、かなり高い買いものだっただろう。当時十二歳だったウィンダム少年は、ギャンブルでものすごい勝ち方をしたらしい。

 ――皆の視線が一気にぬるくなり、ウィンダムを優しい目で見つめた。

 するとウィンダムがナプキンを手に取り、気取った仕草で襟元に引っかけながら、ロイに嫌味を言った。


「こんな三流店を開くと知っていれば、博打はもっと早くに切り上げて、儲けを少なくしたものを」


 全員がこれを聞き、ふたたび半目になった。

 ……なんだろう、やっぱり可愛いげよりも、憎たらしさがちょっとだけ勝つなぁ……。


   * * *



「あのなぁ」


 店主のロイが腰に手を当て、少し強い口調で告げる。


「前から思っていたんだが、お前の口のきき方、人としてどうかと思うぞ!」


「いやいやいや」


 ウィンダムが小馬鹿にしたように失笑する。


「では言わせていただくが、君のお喋りは、おおよそ五分に一度の割合で、文法上の誤りが発生している。それを許容している僕は、かなり寛容な人間と言えるだろう」


 ――ところで、やり合っているふたりよりも、なぜかホットになっている見物人がひとりいた。

 決して寛容ではない秘書のユリアが、なんだかとんでもない殺気を放ち始めている!

 小動物系マイルズがその殺気に当てられて、キュッと目を閉じて背筋を伸ばした。

 彼の今の顔を似顔絵画家が描いたら、お目目とお口はバッテンで表現するに違いない……。


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