第10話 今どきの中学生でも〈玲於奈〉

「ねえ、星那。どうしたの?」



私―――――如月…………じゃなかった、天羽玲於奈は、目の前にいる友達を見て首を傾げる。

彼女こと本条星那は、私が首を傾げるのを見て、先ほどから唸っている声をさらに大きくした。



「いや………………これは言っていいのかいけないのか…………」

「そうやって星那が悩んでくれるなら私はどっちでもいいと思うよ」

「れー、本当いい子。大好き」

「私もだよ。あ、でも恋愛対象として好きなのは凪だけどね!」

「わたしはそうやって自然に惚気てくるれーも好きだよ…………」



うん、じゃあ言わないとこ、と言った星那は私の頬をつぶしたり伸ばしたりしてきた後、ふうと小さく息をつく。

私を「れー」、凪を「なー」、そして幼馴染であり小学校から一緒の伊吹くんだけは「伊吹」と呼ぶ星那は、なぜかその伊吹くんに対してはよそよそしい。


そんな星那はにやりと笑うと、ずいっと顔を近づけてきた。

その拍子に、星那の爽やかな匂いがふわりと香る。



「で。なーとはどうなのよ?」

「いや、その…………」

「ほれほれ、恥ずかしがらなくてもいいから」

「ちょっと、星那……………」



お嬢様であるはずの星那がここ学校だけ素を晒している―――――もとい、社交の場では従順な子優等生を演じていると知っている私は、強く出られずに顔を逸らす。

頬がじわじわと熱を持っているのを自覚しながらも、私は声を振り絞った。



「今日、手を自分から繋ぎました…………」

「…………なんだって?」



笑顔のまま固まり、数秒ののちに顔を引き攣らせた星那を見る。

星那はふう、と大きく何回か深呼吸した後、もう一度同じ言葉を言った。



「なんだって?」

「じっ、自分から、手を繋いだの!」

「ハグは? キスは?」



先程は笑顔だったはずの星那が真顔で質問してくるので、思わず私はずっと前から考えていたことを打ち明けてしまう。



「えっと……………ハグとかキスとかは、物語の中だけの都市伝説的な存在だと……………」

「純粋ってここまでくると言葉が出てこないよね」



私が目をスッと逸らしながらそういうと、「もう、れーは本当に内気なんだから」と星那は呟いた後、鼻息荒く息を吐いた。

そして人差し指を立てると、びしりと私に突きつけてくる。



「いーい? れーは、ほんっっっっとうに顔がいいんだから、てか顔だけじゃなくて性格も勉強も運動もできるんだから! 特にルックスがいいだけで!」

「それは言い過ぎだと思うけど………」

「というか………結婚まではできたのに、なんで恋人っぽいことはできないのかなあ」

「は、恥ずかしくて………」



ぽりぽりと頬をかきながら、私はううう、と力無く項垂れる。

それを数秒見つめたのち、「天使は存在した」と言った星那は顔を手で押さえて上を向いた。


そしてしばらくすると落ち着いたのか、ばっと顔を上げ私に迫る。



「とにかく! 押して押して押して押しまくって!!! なーはちょろいんだから、れーに迫られたら一発でゾッコンだよ! いや、もうゾッコンだけど!」

「ぞ、ゾッコン………!!!」



その言葉にはっとし、私は拳を小さく握る。

その意気だよ!と言った星那はうんうんと頷き、話そうとしたのか口を開いた。



「ということで、最初はハグから————」

「まずは、自然に手をつなげるところから始めるね!」

「そこからかあ」



私の決意の言葉を聞いた星那は、「うん、わかってたよ、だってれーだもん」と呟く。

そのままふっと目を遠くすると、なーもこんなんなんだろうなあ、とため息をついた。



「まあでも、普通はこんぐらいなんだよきっと、多分、おそらく………。…………小学生くらいなら」

「え? 何が?」

「何にもないよ………。うん、ただ、今時中学生でももう少し進んでると思うよ。」



そう言ってずるずると星那は脱力すると、あー、とかうー、とか言いながらしばらく唸る。

それでもしばらくして復活すると、星那は私の手をぎゅっと握った。



「れー。もっと、なーと手を繋ぎたいと思わない?」

「は、破廉恥じゃないかな…………?」

「破廉恥じゃない。全然破廉恥じゃない。むしろピュアっピュアだから。ピュアセレクトだから」



私が顔を覆いながら星那の顔を伺うと、真顔の星那が高速で首を振る。

まだ少し熱が残っている顔をぱたぱたと仰ぐと、よしっ、と言った星那が目をキラキラと輝かせた。



「れー、なーをデートに誘おう!」

「えええええっ!?」



でえと。でーと。…………デート!?


人生初めての単語に目を白黒させて絶叫すると、星那は腕まくりをして「今度一緒に買い物に行こっか!」と私に言う。


えええ? と後ずさりした私に、「そのルックスは使わなきゃもったいないよ!」と前のめりで私に言った。



「れー!」

「は、はいっ」



ふふ、とドヤ顔の星那が、私の眼前に指を突き付けてウインクをした。



「なーをゾッコンにしたい?」

「し、したいですっ!!!!!」



私が握りこぶしを作りながら意気込んでそういうと、星那はしてやったりという顔でにこっと笑う。


―――――そしてその後、明日星那と服を買いに行くことが決まった。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――





あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


次の投稿は今週の金曜日となります。

そして次の話からは初代から完全に話が変わっていきます。一応いつかは合流する予定です。


ということで作者にお年玉として星をくださると嬉しいです(がめつい)。



追記

金曜日に投稿するって言ったけれど、今日から毎日1週間ほど投稿します。

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