第25話 ジェットコースター行ってこー
「よーしっ、ジェットコースター行ってこー!」
「転ぶなよ、玲於奈」
あのあとなんとかコーヒーカップ2回目を回避した俺は、勢いよく拳を突き出す玲於奈に苦笑する。
転ばないよ! と微かに頬を膨らませた彼女はくるりと振り返ると、マップを俺からさっと奪った。
「ジェットコースターは.............ちょっと遠いね」
「ああ、そうだな。歩いて10分くらいか?」
「本当にここは広いねえ」
さすが日本一の広さを誇る遊園地だ、と頷いた玲於奈は、あちらこちらの乗り物に顔を輝かせる。
「そういえば。凪ってジェットコースターすごい好きだよね」
「え? まあ、好きだけど」
「
途中でどんどん言葉が途切れていく玲於奈に目を見開くと、彼女自身も驚いた顔をして言葉を切る。
そのまま少し固まった玲於奈は、何かを誤魔化すようににこりと笑った。
「ちょっと思い出せたのかな? 凪が大のジェットコースター好きってことだけだけど」
「あっても特にいいことない情報だな」
それに合わせて俺がからかうように笑うと、いつも通りの会話が始まる。
なんとか気をそらす方法を考えているうちに目の前にはジェットコースターが見えてきていて、俺はほっとしながら上を見上げた後、玲於奈と二人で絶句した。
「....................これに乗るのか?」
◇◇◇◇◇
待つこと約一時間半。
プレオープンだから大丈夫だと高をくくっていたけれど、さすがに遊園地だから――――そしてジェットコースターという定番の乗り物でもあるのだから、覚悟をして早めに並んでおくべきだったと後悔したのも後の祭りだ。
そうして長い長い待ち時間を超えて立ちはだかったジェットコースターのあまりの高さと傾斜の急さに思わずごくりと二人で息を呑むと、にこやかな係員さんに席へと案内される。
リニューアルオープンしたということもあって記憶にあるものよりもだいぶ恐怖心をあおってくるそれに、少し胸がわくわくするのは否めない。
けれども案内された席が当たり前だけれども二人掛け――――そして乗り物ということもありかなり距離が近いそれに、一瞬で俺の体は固まった。
「凪? こないの?」
「いや................いく、けど」
近い。最近は全然遊園地なんて来ていなかったら何も考えていなかったけれど、座っているときは距離がすごく近い。
そして俺が固まった理由をなんとなく察しているっぽい係員さんからの生ぬるい視線も痛い。
けれど俺だけの理由で、しかもとても身勝手な理由で出発を後らせるわけにはいかない。
覚悟を決めて二人掛けの席に乗り玲於奈の腕が当たった瞬間、胸がドキリと跳ねると同時に出発係の係員の声がした。
「では、いってらしゃーい!」
そんな元気な声とともにゆっくりと乗り物は動き出し、周りはどこか落ち着かないようにそわそわしている。
玲於奈も例に漏れず辺りをきょろきょろしていることに苦笑いして自分自身も周りを見渡した瞬間、ずっと玲於奈との距離に気を取られていたけれど、自分の座席にようやく目がいった。
「えっ、ここ、最前席―――――」
「きゃああああああああ!!」
「うわああああああ!」
「ぎゃああああああああああああああああああ」
俺がはっとして前を見た瞬間目に入ってきた景色は、地面。
それに驚いて言葉を飲み込んだ瞬間、後ろや隣から大絶叫が聞こえてくる。
そしてそんな一瞬の思考の間に速度は増し、耳へ風の音がした。
刹那、頭の中がジェットコースターの事だけで支配される。
「あっはははは!!! たのし―――――!!!」
「きゃああああああああああ!!! わあああああああああああ!!!!」
時には早く下降し、時にはゆっくりと上昇するジェットコースターに興奮を隠せない。
風に攫われていく前髪も何もかもが面白くて、俺は久しぶりに笑い声をあげていた――――けれど。
数分後、目の前でダウンしている玲於奈を見て、俺はうーんと苦笑いする。
さっきとは立場が真逆になり玲於奈が口を押えてベンチに座っているその状況に、思わず苦笑が普通の笑いへと変わった。
「あははっ。ジェットコースターですごいうるさい人いると思ったら、玲於奈だったのか」
「凪が楽しそうで何よりです..............」
「嘘だって、嘘。乗り物は...........」
「ちょっとしばらく休憩」
「でしょーね」
ほい、とひとつ頷き、散歩してこようか、しかし玲於奈を置いていくのは如何なものかと思考する。
そんな俺の考えがわかったのか、彼女は手をひらひらと振った。
「凪、どっか見てきていいよ。さすがに回復は時間かかるー」
「わかった」
気を遣わせるのもアレだしな、と考えて言葉に甘えると、俺はできるだけベンチの遠くには行かないようにしながらも辺りをぶらぶらと歩いていく。
しかしその瞬間子供の泣き声がした気がして、俺はぴたりと進めていた歩を止めた。
「泣いてる?」
けれども数十秒のうちにそれは聞こえなくなってしまい、どこで泣いていたのかがわからなくて途方に暮れる。
まあすぐに解決したのかなと考えながら、俺は5分ほど時間を潰したのち玲於奈のところへと駆けていった。
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少しキリが悪いですが、今日の投稿はここまでです。
しばらく早めに投稿するつもりです。
次回は陽翔視点の予定です。
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