第15話 きゅるんきゅるん

「これは中学校の時の修学旅行の写真でね……………」



楽しそうに陽翔と星那に説明する玲於奈を横目に、俺は先ほど淹れたばかりのコーヒーをすする。

顔を顰めそうになるのを何とか堪えていると、何かを感じたのか、玲於奈はふとこちらの方を振り返った。


そしてバチリと目が合った瞬間手を振った玲於奈をじっと見ると、俺は数秒の後マグカップをテーブルの上に置きなおす。



まあ、可愛い玲於奈が見られるならそれでいいや。



そう思って頷いた俺に、何故か少し引いたような顔の陽翔が俺を見た。



「凪、お前マジで如月さんに関することについては死ぬほどわかりやすいよな…………」

「何の話だ」



俺がムッとして言い返すと、そいつは処置なしというように大仰にため息をつく。

人は自分のことほどよく見えないとはよく言ったものだ、と呟いた陽翔に首を傾げていると、玲於奈が隣で歓声を上げた。



「あ、あとね! このアルバムは、凪が一番かわいかったころの写真なんだよ!」

「ええ、凪が可愛いのなんて全然想像できないんだけど………」



目を輝かせてそういった玲於奈に対し、陽翔は顔を引きつらせながらそう返す。

「ふふふ、これはとっておきだよー?」と楽しそうに笑った玲於奈が星那と陽翔へと見せたアルバムに、俺は思わず手を伸ばした。



「ちょっ、れお――――――」

「じゃじゃーん! どう? 可愛いでしょ!」



ふふん、とドヤ顔で胸を張っている玲於奈を呆然としてみる。

アルバムその中には小学校3年生から5年生ほどまでの俺と玲於奈の写真があって、玲於奈の写真は相変わらず可愛いけれど―――――俺の顔は酷かった。



「こ、これはだな…………」



冷や汗をダラダラと流しながら、俺はアルバムを痛いほど見ている二人から全力で奪おうと手を伸ばす。

けれどそれは無残にも俺の手を空ぶって―――――まあ簡単に言うと二人の手元にあるままだった。


アルバムから目を逸らさない二人の目が、じっと俺の昔の顔を凝視しているのが分かる。

それから数秒後に現在の俺の顔を見比べると、二人はあんぐりと口を開けた。



「なー、めっっっっっっっっっちゃくちゃ可愛くない……………!?」

「目きゅるんきゅるんじゃん………」



二人が呆然として呟いた言葉に、俺は今度こそアルバムを取り上げる。

「玲於奈の方が可愛いだろ!」と言った俺に二人は、玲於奈もすごい可愛いけど、と同意しながらもやはりアルバムをもう一度見た。



「いや、ギャップって言うか、むしろそれ超えてきてるって言うか…………ほ、ほんとになーなんだよね?」

「まあ、それだけは保証しよう」

「ぜんっぜん違うね…………!?」



星那の言葉に、「んふふ、凪すごい可愛いでしょー」と満足げに笑った玲於奈。

やっぱり玲於奈の方が可愛い…………と俺が呟くと、一瞬で顔を真っ赤に染め上げた玲於奈が俺を見た。



「だから凪っ! そういうのやめてってば!」

「何を言う、俺は事実しか言わない」

「凪がおかしくなったぁぁぁ!」



顔がゆでだこのようになっている玲於奈が、星那と陽翔に訴えかける。

けれどその二人は顔を見合わせると、もう一度玲於奈と俺を見た。



「いや、割と…………」

「いつも通りじゃない………?」

「…………確かに」



凪が如月さんのことを大好きなのは、今に始まったことじゃないだろ、と陽翔が呟く。

しかし玲於奈はその内容ではなく『大好き』という単語に反応すると、もう赤くならないだろうというほどのぼせ上った。



「だ、だいすっ…………!」



顔をてのひらで覆う玲於奈に、今度は俺の顔が赤くならないように我慢する。

俺の奥さんが可愛すぎる、と呟くと、陽翔と星那が天を仰いだ。



「………………もうこの二人結婚した方がいいと思うんだ、オレ」

「そっか、それは良かったね伊吹。もうしてる…………」

「そうだった………………!!」



神よおおおおおおおおおおおおっ、と叫んだ二人に俺はハッとすると、まだかすかに熱い頬をぱたぱたと仰ぐ。

とにかくっ、といつもより大きく張り上げた声は仕方がないと思った。



「このアルバムは、封印!」

「「「異議ありぃぃぃぃぃぃっ!!!」」」



俺がやや乱暴に閉じたアルバムは、一瞬で目の色を変えた三人に奪われましたとさ。





◇◇◇◇◇





「じゃ、玲於奈、本条、また明日」

「如月さん、今日はありがとうな!」

「うん、またねー」

「おやすみー」



俺たち男子組が手を振ると、玲於奈とその家に泊まる本条が手を振り返す。

くぁ、と俺が小さく欠伸をすると、陽翔は隣の家の玄関を、手慣れた様子でぎいっと開けた。


そのまま鍵を開け、暗くなった部屋の電気をつける。

ご飯は玲於奈の家で食べてきた…………というか作ってきたので、あとは風呂に入って寝るだけである。



そう思いながら順番に風呂に入り、俺がそろそろ寝ようかと陽翔の布団を用意し始めたとき、それは起こった。


—————不意に、陽翔がクラッカーを取り出す。




「やるぞ、凪くんの初デート会議ーーー!!!どんどんぱふぱふーーー!!」

「………………は?」







―――――――――――――――――――――――――――――――





スライディングセーフ(アウト)!



ちなみにアルバムは捨てられそうになりましたが、きちんと如月家の棚にしまわれました。

まあ捨てられても玲於奈の母(詩織)がデータとして保管しているので問題はない。

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