第14話 禁断の入学式
「お前ら、何やってんだよ……………」
俺が顔を顰めて呟くと、「凪、おかえりー!」と笑った玲於奈が振り返る。
その声に続けて言おうとした文句をぐっととどめると、俺はテーブルにある『それ』をじっと見つめた。
「…………アルバム」
「そう! 星那が見たいって言ったから、整理もかねて見てみようかなって」
「そうか」
満面の笑みで二冊目を取り出す玲於奈に何も言えず、俺は苦笑しながら頷く。
そして玲於奈の方から顔を動かし、俺はによによと笑っている星那と陽翔の顔を見た。
「お前ら、いい加減にしろよ」
「待て凪、俺は悪くないぞ!?」
「止めろよストッパー係」
慌てたように手を振る陽翔に冷ややかな目を向ける。
いやそれ八つ当たりい! と叫んだ陽翔はとりあえず放っておいて、俺は星那の方を向いた。
「お前、絶対俺がいなくなったタイミング狙っただろ…………」
「なーは好きな人との対応の差が激しすぎて怖いなあー」
「当たり前だろ」
「すごい、自然に惚気てくるのはこの夫婦の特技なのかな」
茶化すように言った星那の言葉を無視して、ふんふんと鼻歌を歌いながらアルバムを見ている玲於奈を見る。
先ほどの慌てようはどこに行ったのか、陽翔は面白そうにその写真を見ていた。
二人分のご機嫌な後頭部を見てその頭を叩きたくなるけれど、俺は何とか我慢して星那の方を見る。
しかし、そいつはとてもいい笑顔をその整った顔に浮かべると、勢いよく親指を上げた。
「まっ、やっちゃったものは仕方ないし、アルバム見るしかないよねっ!」
「違うそうじゃない!」
◇◇◇◇◇
「ぶふっ…………この凪、めっちゃ不機嫌じゃん………。なんで?」
とりあえず先ほど俺の足元まで滑り込んできた一枚を渡すと、それを見た陽翔が噴き出して玲於奈に問いかける。
んー? と言ってその写真を受け取った玲於奈は、同じく噴きだした後に笑っていった。
「それね、中学校の入学式の後に写真なんだけど。実は香澄さん……………凪のお母さんが寝坊しちゃって。だから、入学式が始まるか始まらないか! ってところまで遅刻寸前でね」
ふふふ、と楽しそうに笑った玲於奈は袖口で口元を抑える。
そのまま受け取った写真をアルバムの中に入れながら、彼女は心底面白いというように口を緩ませた。
「それで、一足先に私の家族は入学式で座ってたんだけど。『入学式が始まります』っていうアナウンスがされた瞬間にさ」
あ、それ聞いたことあるー! と言った星那が、腹を抱え始める。
玲於奈の声を聞きながら、俺は忘れたくても忘れられないその出来事を脳裏に浮かべていた。
『―――――母さん、早く起きろよ! 流石に遅いから、もう玲於奈と詩織さんには連絡して先行ってもらったぞ!』
『ううん、悠斗くんに送ってもらって…………』
『父さんは今アメリカだし、チケット持ってるの母さんだろ! 俺まで遅刻するから早くしろ! くそババ………イタっ!』
『誰がクソババアだって?』
『最後まで言ってないだろ!』
げんこつが振り落とされた後頭部を抑えながらそういうと、クソババ………母は「こんな子に育てた覚えはないわ!」と憤慨しながら立ち上がる。
そのまま視界に入った時計を一瞥した後、母は目を見開いてそれを凝視した。
『え、嘘もうこんな時間!?』
『さっきからそう言ってるだろうが!!!!』
それから急いで車を出したけれど、会場に着いたのは入学式が始まる一分前で。
もしかしたらもう始まってるかもしれないし、静かに入ろう。と俺が言うと、妙に落ち着いた母が頷いた。
『うん、そうね。大切な一人息子の入学式に恥をかかせるわけにはいかないもの! 堂々と入らないとね』
『なあ母さんお願いだから俺の話を聞いてくれよ』
『よし凪、お母さんに任せてね!』
『後生だからやめてくれ!』
そんな俺のお願いも虚しく、腕まくりをした母は勢いよく取っ手を掴み―――――ドアを開けた。
『その入学式、ちょっと待った!!!』―――――と。
「………ふはっ、はっはは…………凪の母さん、流石にアクティブすぎるだろ…………っ! ひいいいいおなか痛い…………」
やばすぎ…………と言ってうずくまっている陽翔は、同じく大爆笑している星那と床で笑い転げている。
その後どうなったの? と聞かれた問いに、玲於奈は「確か」と言いながら口を開いた。
「確か、代表の子がなんでか感動して、新入生代表挨拶をやることになったんだっけ?…………凪と―――――香澄さんが」
その後、しばらくリビングから笑い声が途絶えることがなかったのは言うまでもないだろう。
――――――――――――――――――――――――――――
投稿できる時に早めに投稿です。
新入生代表挨拶についてどうなったか詳しく書きたかったけど、とりあえず今のところはスルー。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、星を入れてくださると嬉しいです。
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