第16話 でーとの価値観 男子ver

 

「さて。今から凪くんの初デート会議を始めます! 議長、オレ! 副議長、オレ! 観客、凪!」

「自分ごとなのに観客なのかよ俺…………」



どこからかクラッカーを取り出した陽翔を抑えつつ、俺はやや諦めがちに突っ込みを入れる。

そんな俺に「凪は自分事、特に如月さんが絡むと沼るタイプだろ」と返した陽翔に何も言えずにいると、そいつはニヤッと笑って口を開いた。



「ということで! 凪、まず来週末のデートについて―――――」

「そもそもでーとってどうやって誘ったらいいんだ…………?」

「そこからかあ」



凪のデートがひらがなになってる、と呟いた陽翔に首を傾げる。

「じゃあそんな恋愛初心者凪くんのために」とソファに座った陽翔は腕を組む。



「まず、デートとは何たるかについて教えて差し上げましょう!」

「せんせー」

「お、なんだね凪くん」

「デートってなんでするんですか?」

「それを今から話すんだよ凪くん」



まず、と人差し指を立てた陽翔を見る。

俺がそれを真面目に見つめていると、んーと唸り声をあげた陽翔がそれを俺に突き付けた。



「初デートっていうのは、そもそも『相手がどういう人間』なのかっていうのを知るためのものなんだよ」

「ほへ」



初デートはな、と言った陽翔に、ハー〇ンダッツを食べながらこくりと頷く。

悪戯で変なこと吹き込んじゃだめかなとつぶやいた陽翔は、怪訝そうな顔をした俺に首を振った。



「まあ、凪たちの場合は幼馴染だからそこは除外するとして。普通の恋人は、最初で合わないと思ったら段々別れに近づいていく。で、いいと思ったら、もう一回デートに誘うんだ」

「なんでだ?」

「おま…………。まあいい、もう少しお互いのことを知って、仲を深めるため。これは友達から始めた場合でも同じだな。『恋人』っていう距離感だと相手をどう感じるのかっていうのを手探りで知っていく感じだ」



友達と恋人じゃ接し方も違うだろ? と言った陽翔に、納得しながら頷く。

少しだけ溶けてきたアイスを急いで食べていると、陽翔は先ほどしまった指をもう一度立てた。



「で、相手にどういう感情を持つかはその人たち次第。その感情がやっぱり『友情』だった、っていう可能性もあるし、『恋情』だった、っていう可能性もある。これは本当にわからない」

「ふむ」

「だからデートをするんだけど…………ここまではわかったか?」

「陽翔は恋愛マスターだな」

「だっせえな恋愛マスター」



二度と使うな…………と顔を顰めた陽翔の話を頭にインプットしていると、不意に陽翔が口を開いた。



「まあ、だから凪たちの場合は、『恋人』…………まあこの場合は『夫婦』だな。になったとき、お互いが持つその感情は何なのか確かめること……………って、凪はもう疑いようもないか」

「まあな」

「片思い拗らせてるもんな……………」

「誰が拗らせてるだ」



食べ終わったアイスのスプーンを左手に持ち替えながら俺が悪態をつくと、そいつは冗談だよ、と言って笑う。

「凪の場合は、如月さんが凪のことどう思ってるか確かめるの!」と人差し指を俺の眼前に突き付けた陽翔に、俺は顔を引きながらもうなずいた。



「まあ、『好き』じゃない人とはさすがに結婚をしないとは思うけどな…………」

「ん?」

「いや、なんでもない。オレは推測は言わない主義なんだ」



べっと舌を出したそいつにイラついて、何となくコーラを突っ込む。

陽翔が炭酸を苦手なのが知っている俺は、きちんと次の段階までわかったので隣にあった紙コップをそいつの口に押し付けた。



「きたねえ…………」

「だべのぜいだ」



紙コップへコーラを噴出した陽翔に顔を顰めると、「口すすいでくる」と陽翔が立ち上がる。

扉出て左なー、と言った俺に「わかってるー!」と返すと、そいつはぱたぱたと足音を鳴らしてリビングを出た。



「……………デート、ねえ」



でえと。でーと。デート。

自分に最も関係がないと思っていた単語ランキング三位、デート。


ちなみに一位は結婚である。


この短期間で一気に更新しているな、と思ったけれど、俺はそれに気づかないためにわざと口には出さないようにした。



「明日、誘う。でーと」



どう誘う? さりげなく、とか。…………いや無理だろ。


自分自身に突っ込みを入れるけれど、陽翔のように楽しい気持ちは沸いてこない。

詰んだ、と思わずつぶやいた言葉は、誰もいないリビングに響いて消えた。



「どうしろっていうんだよ」



こちとら健全な男子高校生だ、女子にデートなんて誘ったことがない…………というか付き合ったことすらない。

玲於奈一筋で、しかも付き合うどころか結婚する気すらさらさらなかったので当たり前だが、それでもこんなことで悩む日が来るとは思いもしなかった。



腕を組んで考えるポーズをしてみるが、何もアイデアは浮かんでこない。

何十度目かのため息をついてソファに寝っ転がった瞬間、ガチャリと扉が開いて陽翔が帰ってきた。



「お、ちょうどいいところに」

「んえ?」



かくかくしかじか、と先ほどまで悩んでいたことを説明する。

それを聞いて「なるほどなるほど」と言った陽翔は、何故かとても楽しそうにニヤリと笑った。



「さて凪くん。デートにとって最も必要なもの三つは何だと思う?」

「気合とメンタルと折れない心」

「お前は何をしに行くんだよ」



デートだろ、と言った陽翔に首を傾げる。

それに呆れたような顔をした陽翔は、けれど数秒すると元の顔…………さっきと同じ愉快そうな表情に戻った。



「デートの三種の神器はな」



そして、三本の指を俺の眼前に差す。



「予習、距離感、服装だ!」



ということで、明日服を買いに行くぞ! と、陽翔はアイドル顔負けの顔面偏差値でウインクした。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――



あと3日ぐらい投稿します。



コメントもらって大変嬉しいのですが、おそらく受験が終わって落ち着いたあとに返信する形となると思います。大変遅くなりますがご容赦ください……………。



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