第17話 でえとの目標 女子ver.〈玲於奈〉

「星那? まだ寝ないの?」



私―――――天羽玲於奈は、パジャマを着たままベッドに座っている星那を見上げる。

私の中で最も仲がいい友達だといえるその彼女は、「ちょっと寝る前にねー」と言いながら私と向かい合った。



「さて、れー。週末に誘う予定のデートの話なんだけど」

「で、でえと…………!」



私がハッとしてこぶしを握り締めると、星那が頷く。

今日言った通り、明日は服を買いにいこっか、と言った星那との買い物が久しぶりだと気づいた私は、思わず笑顔で返事をした。



「うん! でも、服は明日でしょ? 今からは何の話するの?」

「ふっふっふー。それはズバリ―――――デートの誘い方!」

「でえとの…………誘い方?」



私が首を傾げると、星那は「そう」と真面目な顔で頷く。

それに私はさらに首を傾げた角度を大きくすると、彼女は指を一本立てた。



「去年のなーとれーみたいに、『友達』とか『幼馴染』…………まあ簡単に言うと『恋人』じゃなかった場合、「ただ遊ぶだけ」みたいに誘うとか、ダブルバインドを使うとかあったんだけど…………」

「私と凪、結婚してるよ」

「そうなんだよねえ。だからこそ、『夫婦』っていう距離感で誘うのか、『恋人』っていう風に誘うのか。……………または、なーが『友達』としてみていた場合が一番厄介だけど」



なーの感情事態はわかっているとはいえ、なーがれーの感情を知っているかは別だしね、と星那が言葉を落とす。


距離感、と小さく呟いた私を見ると、「答えられる範囲でいいんだけどね」と星那が口を開いた。



「れーたちの結婚って、どんな感じだったの?」

「うーんと、色々あって、……………えと、とりあえず『好き』とか『付き合ってください』とかいう単語は……………言ってないです」



私が目を逸らしながら言うと、星那はなぜか遠い目で「うん、今までの会話から何となく察してたよ」と呟く。

でもまって、と言った星那は、脱力していた体を上げて私を見上げた。



「結婚するときは? その時ぐらい、好きだからっていう理由ぐらいは言ったんじゃない?」

「いや、私が「結婚しよう!」って言ったら、「どうしてそうなった!?」って言ったけど、…………でも特に、何も言われなかった」

「あ、…………なーがれー馬鹿っていうの忘れてた」



星那の言葉が聞こえなった私は、首を傾げて彼女の方を見る。

それに「何にもないよ」と笑ったのが見えたけれど、それとは対照に自分自身の胸がなんだかモヤモヤするのを感じた。



「ねえ、星那」

「なーに?」

「凪ってさ…………私のこと、どうでもいいのかな」

「は」



私がクッションを抱きしめながらそういうと、星那は口をあんぐりと開ける。

それからしばらくそれをはくはくと開け閉めした彼女は、思い切ったように声を発した。



「な、何でそう思うの?」

「だって。凪は昔から何を言っても全部ちゃんと聞いてくれて、それで頷いてくれるから。私が何を言っても「大丈夫」って笑って、叶えてくれるから」

「それの何がダメなの? いいことじゃん」

「……………そうだよ、いいことなの」



でもね、と呟いた言葉に、星那やっぱり首を傾げる。


私の幼馴染は、いつも私の側にいて、私の願望をできるだけ叶えようとしてくれてて、かっこよくて、優しい。

でも、時々不安になるのだ。


凪は、私のことがどうでもいいんじゃないかと。

だから私と結婚してもどんな関係でもよかったし、なんなら香澄さんに昔からそのことについて言われてたから何となくしただけかもしれない。



「結婚とか…………人生で大事なものって、わかってる。でも、だからこそなんか言うって思ってて…………むしろ、なんで何も言わないの? って思って…………ごめん、私やっぱりわがままだ」



これだけ尽くしてもらっていて、彼に何ができるというのだろう。

私が返すべきものは山ほどあっても、彼が私のためにしてくれることなどもうないというのに。


そう思って苦笑いした瞬間、星那が優しく微笑んで私を見た。



「…………そっか。れーは、なーにわがまま言ってほしいだね」

「わがまま?…………私のこと?」

「違う違う。って、わがままか」

「返す言葉もございません…………」



私が口をもごもごとさせていると、星那はあははっと笑って「冗談だよ」という。

それに上目遣いをすると、星那は小さくもう一度笑った。



「れー。今回の目標は、『わがまま』ね」



そう言って可愛くウインクした星那に、私はぱちぱちと目を瞬く。

そんな私ににこりと笑うと、彼女は悪戯っぽく私を見た。



「れーがわがままを言って、なーにわがままを言ってもらう。…………それでいい?」

「はえ」

「返事は?」

「はいっ!」



思わず私が勢いで返事をすると、星那が「よしっ」と言ってベッドから立ち上がる。



「そのために、まずは明日の洋服決めね!」



明日、覚悟しなさい! と指をさした星那に、私は勢いよく返事をした。






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